第五十三話
落とし亀を見つけたら即焼いて次の亀さんを探す。これを午前中繰り返したが魔石が貯まるばかりで甲羅はドロップしない。
昼時になったので迷い家で昼食を取る。メニューは母さんが持たせてくれたおにぎりともぎたてトマト、畑の横を流れる清流で捕まえたニジマスの塩焼きだ。
トマトをもいだついでに覗いてみたら捕まえられそうだったので捕まえた。トマト用に持ち込んだ塩が意外な所で役に立った。
食べ終わり亀狩りを再開しようとしたら、神社の方から強い思念のような物を感じた。なので塩焼きを作って奉納しておいた。他人が美味しそうに食べていたら食べたくなるのは神様も変わらないらしい。
更に一時間ほど亀を狩るも甲羅は出なかった。サクサク倒せる玉藻で出せない渋いドロップ率。普通のパーティーが甲羅を出そうとしたら何日かかるのだろう。
亀狩りを諦め五階層に移動して奇襲ヘビを狩りまくる。これは俺が1日中五階層に居たというアリバイ作りの為だ。この魔石を売ってから帰る。
魔法を使えない優が大量の落とし亀を狩るのは不自然だ。なので1日中奇襲ヘビを狩っていたという事にする。
「随分と狩りましたね。うちとしては氾濫対策になるので助かります」
「武器を買う資金にしたいので。何度か繰り返すと思いますので宜しくお願いします」
受付のお姉さんと軽く会話しギルドを後にする。亀さんの魔石は後に使うので迷い家に貯めておく。
こんな亀狩りを週末に行う事三回、もうすぐ七月という頃にやっと甲羅をゲットする事が出来た。物欲センサーさんにはそんなに仕事しなくて良いよと言いたい。
取り敢えず目標を達成出来たので期末テストに備える事にする。成績を気にする両親ではないが、良いに越した事はない。
「優、舞、夏休みに何か予定はあるのか?」
もうすぐ期末テストというある日、夕食の席で父さんが俺と舞の予定を聞いてきた。
「喜久子ちゃんやめぐみちゃんと遊ぶ約束してるよ」
「俺は泊りがけでダンジョン探索をするくらいかな」
舞は通学時に合流しているお友達と遊ぶ約束をしているみたいだ。俺は亀さんの甲羅を取りに行くという名目で少し離れた場所のダンジョンに潜る予定だ。
「そうか。実は無医村になってしまった村に往診してくれと依頼があってな。一緒に行くなら帰りに観光でもと思ったんだ」
「じゃあ、その日は駄目だって伝えるね!」
「俺もダンジョンに行くのは何時でも構わないから行くよ」
こうして我が家では初の家族旅行に行く事が決定した。子供を残して行く事にならず父さんはホッとしているようだった。
「その村唯一のお医者さんが亡くなったらしくてな、後任が決まらないようなんだ。なので月に一回医師が派遣される事になったらしい」
前世でも過疎化や無医村化の問題はあったが、この世界でもその問題は避けられなかったようだ。
「八月の頭から一週間の予定だ。うちの患者さんにも張り紙などで通知しておこう」
行き先は山奥の村だがある程度は発展しているらしい。この世界で初の旅行、楽しみだな。
 




