第五百二十八話
「それならばお母さんもついて行こうかしら」
「それならばお父さんも行くぞ」
舞やアーシャ、ニックも行くとなれば両親が黙っている訳が無い。迎賓館に戻って結果を報告するなり両親も参加を表明した。
「下手にここから出られないから暇だしな」
「それなら玉藻ちゃんの迷い家に居た方が良いわ」
迎賓館に居てもテレビを見るかネットを見る位しかやる事がないのだ。それならば迷い家でも可能だし、迷い家ならば海で遊んだり釣りをしたり果物を食べたりも出来る。
「お兄ちゃんの迷い家が便利過ぎる・・・」
「舞、それは今更だ」
正直、ここに滞在するより迷い家で暮らす方が良さそうに思えてしまう。だが、迷い家は出入り口が俺の居場所にリンクする。軍の任務で遠出した場合に両親と舞が困ってしまう。
「お肉は優ちゃんが取ってきてくれるし、欲しいのは調味料ね」
「それは太政官さんが手配してくれた。ここに届けて貰う事になってる」
ニックとアーシャも同行する為、宮内省から必要備品として支給される事になったのだ。皇帝陛下と皇女殿下用の調味料なのだから高級品が送られてくるのではなかろうか。
「優、どこのダンジョンに潜るつもりだ?」
「上野か板橋のダンジョンに潜るつもりだったけど、ニックとアーシャの参加で皇居ダンジョンに潜る事になった」
肉集めという私的な理由なので本来ならば皇居ダンジョンに潜る事は出来ないのだが、アーシャとニックの参加で許可が出たのだろう。
多分潜るのを少しでも近いダンジョンにして安心したいという思惑なのだろうけど、こちらも楽なので素直に従う事にした。
そして日は進み週末。朝食後に全員を迷い家に招き入れ、俺だけで宮内省からの迎えの車に乗り込んだ。服装は軍装を選択した。
公務中では無いので私服の方が良いのだが、宮内省に入るのに相応しい服装というと困ってしまう。私服で礼装など持っていないし、こういう時に活躍する学生服も俺は軍装で通っているので持っていない。
結果、消去法で軍装を着ていくという物が残ったという次第だ。ダンジョンに入るのでその装備という手もあるが、車に乗る時に武器が邪魔になるので却下した。
宮内省に入り特別攻略部隊が使っていた部屋の前を過ぎてダンジョンに向かう。ダンジョン前には意外な御方が待っていた。俺は姿勢を正して敬礼し、お言葉をかけられるのを待った。
「中尉に限って万が一も無いと思うが、無理はなさらぬよう」
「ありがとうございます、陛下。慢心する事なく目的を果たして参ります」
ダンジョン前を守る衛士が玉藻の事を知らない者だったので、玉藻に関する事は口に出来ない。陸軍中尉として陛下にお礼を述べてダンジョンに入った。
後に聞いた話では、執務に戻った陛下は侍従長さんに余も行きたかったとぼやいていたそうだ。侍従長さんは血相を変えて止めたそうだけど、まさか実現したりはしないよね。
 




