第五百二十六話
さて、折角上野に出てきたのだからこのまま帰らずに観光して帰ろうかと思う。上野で観光といえば、まず思い付くのは動物園だ。
「舞、アーシャ。すぐに帰らずに動物園を見て帰ろうと思うけどどう?」
「「行きたい!」」
即座に同意されたので、大通りを渡り恩賜公園に戻る。入場券を自動販売機で買って中に入った。前世ではこの正門付近でパンダ焼きというお菓子を売っていたが、この世界には存在しない。
中国は未だ諸勢力が覇権を争っているので国としてまとまっておらず、日中国交正常化など為されていないのでパンダは来日していないのだ。
それでも沢山の動物が暮らす上野動物園は観光客で賑わっている。俺達もゴリラやシロクマなどの動物達を見て回った。
「少し遅くなったが昼食にしようか」
園の東側は見終わったので、西側に向かう道の手前にあるキッチンで昼食をとる事に。昼時を少し過ぎていたのですぐ席に座る事が出来た。
「俺はハンバーグ弁当にするかな」
「舞は角煮丼で!」
「私はそぼろ丼というのにしてみます」
パーカーのフードを取らずに食べていた俺達は、従業員やお客さんから不審な目で見られていたが気にしない。レストランを出て西側に向かって歩いていると、舞がぼやきだした。
「離れているなら何か乗り物があれば良いのに」
「昔はモノレールがあったんだよ。だけど老朽化に伴って廃止されたんだ」
昔は東園と西園をモノレールが繋いでいた。しかし車両の老朽化により廃線となってしまったのだ。
「そう言えば、ここには狐さんは居ないの?」
「残念ながら狐も狸も居ないんだよ」
「いつか日本の狐も見てみたいです」
キツネなんて動物園に普通に居そうなイメージだけど、実はキツネが居る動物園は結構少ない。関東だと井の頭自然文化園か東武動物公園くらいか。
雑談をしているうちに西園に到着。大きな池に沿って鶴やペリカンを見学。ペンギンやキリン、カンガルーといった動物を見て回った。
「さて、一通り見終わったし帰るとしようか。舞、これくらいで音を上げていたらダンジョンなんて潜れないぞ」
来た道を戻る事を想像したのか、舞の表情が曇ったので釘を差しておく。ダンジョンに潜ったら歩く距離はこんな物では済まないからね。
「だけど今回は戻らないから。ほら、こっちだ」
俺は二人を連れて上野駅と逆方向にある池の端門から出る。こっちの門は小さいし知らない人も居るのではなかろうか。
「こちらにも門があったのですね」
「大体の人はこっちを使わずに正門を使うんじゃないかな。でも、こっちも中々便利なんだよ」
話しながら歩けば地下鉄の根津駅に到着した。ここを使えば上野駅に戻るより早く帰れる。
「お兄ちゃん、それは助かるけどこのまま帰って大丈夫?私とアーシャは迎賓館から出ていない事になっていない?」
「あっ、しまった!」
出た時は二人を迷い家に入れて出てきたのを忘れていた。結局、俺は近くにあったお寺の境内で玉藻になり二人を迷い家に入れて帰ったのだった。
 




