第五百二十四話
「おい、何故答えに詰まる?そこの二人は誰何だ!」
白鳥ギルド長の口調と表情が厳しい物となる。違法行為の片棒担がされるかもしれないとなれば無理もない。
「怪しい者ではありませんよ、ましてや犯罪者でもありません。舞、フードを」
「うん、お兄ちゃん」
まずは舞がフードを外して顔を見せる。それを見たギルド長の反応は予想外であった。
「滝本中尉・・・こんな可愛い娘にお兄ちゃん呼びさせるなんて。取り敢えずお巡りさん呼ぼうか」
「ギルド長、舞は正真正銘の妹ですからね!」
確かにお巡りさん召喚案件とも見える状況だが、俺が舞からお兄ちゃん呼びされるのは完全に合法で正当な権利だ。
「はっはっはっ、半分冗談だ」
「半分本気だったんですかい!」
お巡りさんを呼ばれた所でこの件に関しては俺は無実なので良いのだが、別の件で困ってしまうので呼ばないでほしい。
「で、何でこんな事してまで俺に登録させるんだ?中尉の妹なら普通にカウンターで登録すれば良いだろうに」
「とある事情から舞はスキルを登録していません。これは関中佐の判断です」
ギルド長はスキルを登録していないと聞いて批難するような視線を向けてきた。本来ならスキルを授かる日に役所で登録しなければならないので、批難されるのは仕方ない。
「当然相応の理由があります。ギルド長は俺の父さんにまつわる騒動をご存じですか?」
「ああ、優秀なスキル持ちの滝本医師を専属にしようと上の連中が暗躍した件だな」
ギルド長もあれだけマスコミで騒がれたので知ってたようだ。まあ、あれだけ騒いでいたのだから知らない人はほぽ居ないだろう。
「あれ以上の争奪戦が繰り広げられるとしたら、ギルド長はどうします?」
「そんなに優秀なスキルなのか?一体どんなスキルなんだ・・・」
「それを知れば巻き込まれますが、それでも知りたいですか?」
秘密を知る者は少ない方が良い。そして、知ったなら否応なく巻き込まれるのはお約束というもの。
「止めとくよ。聞いたら危ないって俺の本能が叫んでる。そして、そっちのもう一人にも本能が警鐘を鳴らしてるんだが・・・探索者登録する以上聞かない訳にはいかないんだよなぁ」
「恨むなら関中佐をお願いします。白鳥ギルド長に頼むのは関中佐の判断ですので」
視線でアーシャにフードを外すよう促し、アーシャがゆっくりとフードを外した。美しい白銀髪と白い肌、彫りの深い顔は彼女が日本人ではない事を如実に語っていた。
「・・・まさか、まさかと思うのだが。念の為聞いても良いかな?滝本中尉、そこの銀髪美少女さんは畏れ多くもロシア皇帝陛下の御息女アナスタシア・ロマノフ皇女殿下だったりするのかな?」
「流石白鳥ギルド長、御名答です。ギルド長、普通に受付で探索者登録出来ない理由は言うまでもないですよね」
アーシャが姿を晒して探索者登録なんてしたら、居合わせた人達や一般のギルド職員はどんな反応起こすやら。
「試しにやってみて良いですかね?」
「ダメに決まってるだろうがぁ!」
ギルド長室に白鳥ギルド長渾身の絶叫が響く。勿論冗談で、本当にやったりしませんからね。




