第五百二十三話
上野駅を公園口から出て恩賜公園に入る。この辺りは木々が多いので、道から外れて林に入れば人から見られる心配はない。念の為周囲に人が居ない事を確認して玉藻になり、迷い家に二人を迎えに行く。
「お待たせ、上野恩賜公園に着いたよ。記者を撒くのに少し手間取った」
「お父さんの騒動が沈静化しても、お兄ちゃん自身が標的だもんね」
舞、それは俺の精神にダメージがくるから止めてくれ。兎も角、用事を済ませる事を優先させたい。俺は二人を連れて迷い家を出ると男の姿に戻る。
「みんなでお揃い!」
「こういうの、良いですね」
俺達は目立たないよう同じパーカーを着てフードを深くかぶり、顔がよく見えないようにしている。舞とアーシャは同じ服を着ているのが嬉しいようではしゃいでいる。
「舞、俺達の周囲に慣性を反転させる空間を。アーシャ、離れないようにな」
「はい、絶対に離れません!」
笑顔のアーシャは左腕に俺の右腕を、右腕の舞の左腕を組む。俺達はそのまま林を出て御徒町方面に向かい歩いて行く。
桜の季節ならば人で溢れていたであろう公園も、四月の半ばを過ぎた今では花は散り人の姿はあれど散発的だ。三人で並んでいても邪魔にはならなかった。
公園を抜けて大通りを渡り、上野のギルドに入る。揃いのパーカーを着て顔を隠した三人に注目が集まるが、気にせず受付に行く。
「すいません、今日白鳥ギルド長と面会する約束をしているのですが」
「ギルド長にですか?・・・しょ、少々お待ち下さい。すぐに確認致します」
不審な三人に訝しげな表情だった受付嬢は、俺が提示した身分証明書を見て態度を変えた。不審人物だと思っていた人間が陸軍中尉でした、なんてさぞや驚いた事だろう。
「お待たせ致しました。こちらにどうぞ」
慌てて戻ってきた受付嬢が俺達をギルド内部に案内する。いかにも不審な俺達が内部に通されるのを見て居合わせた探索者達は何事かと首を傾げた。
「ギルド長、滝本中尉とお連れの方をお連れしました」
「うむ、通してくれ。滝本中尉、久しぶりだな。まさか君が軍に入り早々に中尉になるとは思ってもみなかったよ」
ギルド長の部屋に入ると白鳥さんが立ち上がって歓迎してくれた。促されるままに応接セットのソファーに座る。
「関から中尉が来ると聞いて大盾の保守かと思っていたのだが、お連れさんはどなたかな?」
「はぁ、中佐は用件を伝えていなかったのですね?」
「ああ、君が来るから時間を空けておけとしか言われなかったよ」
これは白鳥ギルド長を驚かせる為と言うより機密保持の必要から言わなかったのだろうな。何せ探索者登録してもらう人物の重要性は半端ではない。
職員さんがお茶とお茶菓子を持ってきた。彼女が退室するのを待ってから本題に入る。
「実は、今日はこの二人の探索者登録を頼みたくてお時間を頂きました」
「探索者登録?窓口でやらないと言うことは訳ありか。念の為に聞くが、法に触れる事じゃないだろうな?」
ギルド長の問いに俺は答えられずに沈黙する。二人はスキルの登録を行っていない。その状態は違法状態と言えるので、即答出来なかったのだった。




