第五百二十話
「中尉殿、おはようございます。あの噂聞きましたか?」
「おはよう。噂とは何かな?」
翌日、登校するなり辻谷君が駆け寄り学内に流れている噂の話をしだした。
「昨夜なんですが、本営で謎の絶叫が響き渡ったらしいですよ。夜間勤務の士官が聞いたそうです。エリート揃いの本営勤務の士官が絶叫するなんて考えられません。心霊現象なのではないかと言われています」
「へえ、神社から神職さんを呼んで祓ってもらった方が良いのかね」
この世界では神の実在が証明されている。なので心霊や物の怪の類も実在しているというのが一般的な感覚となっていた。
「それと、これが中尉殿が休んでいた間のノートです。どうぞ」
「ありがとう。教科書を読んだだけでは分からない所もあるから助かるよ」
彼の貢献がどのような思惑の元に為されているかは知らない。だが、助かるのは事実なので素直に礼をいっておく。
授業は恙無く進む。休み時間に辻谷が話しかけ周囲の生徒が聞き耳を立てるが当たり障りのない話題なので普通に応じた。
授業が終わり迎賓館に帰ると、部屋では舞とアーシャがスキルの鍛錬に励んでいた。アーシャの前には紙束が置いてあり、それらには彼女が遠視で見た風景が念写で描かれていた。
「二人とも精が出るな。でも、疲れないよう程々にな」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。無理はしないから。でも、一日でも早くお兄ちゃんの力になりたいから」
健気な事を言う妹の頭に手を伸ばし優しく撫でる。隣のアーシャが羨ましそうの見るので反対の手でアーシャの頭も撫でておいた。
「そうそう、舞とアーシャは探索者に登録する気はあるかな?」
「えっ、登録しても良いの?」
探索者に登録するのはスキルを得た後というのが一般的だ。スキルを得てからダンジョンに潜る方が安全だからだ。
なので現状では探索者登録したという事はスキルを授かったという事に等しい。スキルを授かった事を秘匿しているので、探索者登録は出来ないと自然に思っていたのだろう。
因みに、白鳥さんの方は土曜日に訪問して大丈夫だと関中佐から連絡が来ている。二人にも土曜日に予定が無い事は確認済みだ。
「大っぴらには出来ないから、そこらのギルドでと言う訳にはいかないよ。でも、信頼出来るギルド長さんに直に手続きをしてもらえば出来るよ」
探索者登録が可能だと伝えると、二人とも喜んで登録すると言ってきた。それを受けて関中佐に二人が了承したとメールで伝えておいた。
因みに、この時ついでに士官学校内で囁かれている噂についても報告しておいた。すると中佐からは噂の真相が語られた。
昨夜、夜勤の先輩方が休憩時に雑談で干しイカの感想を言っていたそうだ。そこに通り掛かった中佐がニックも釣りと加工をした事をバラしたとの事。
二度目なのだし、本営に響き渡る程叫ばなくてもと思ってしまうが二度くらいでは慣れないのかな。




