第五百十八話
「おはようございます。今日は少し変わった物を持ってきたのですがお口に合いますかどうか」
「おはよう、滝本中尉。これは・・・干しイカか。珍しいな」
翌日も士官学校は休みにしていたので情報部に出勤する。挨拶をした後いつものタッパーを取り出して机に置いた。
「迷い家の岩場でルアー釣りをしたらイカが入れ食いだったので。あ、関中佐の分は別にありますから」
「どれどれ・・・おお、これは美味しい。日本酒が欲しくなるな」
言わずとも関中佐の分を取り置きするような人達ではないが一応伝えておく。早速手が出ているが、評価は上々なようで一安心。
「おはよう、滝本中尉。何やら騒がしいな」
「おはようございます、関中佐。今日はいつもと毛色が違った差し入れを持ってきたもので」
部長室に入り挨拶を交わす。部室が騒がしい理由を話して中佐用のタッパーを渡した。
「これは珍しいな。いつもはおやつ系なのに酒のつまみとは」
「イカが大量に釣れまして。たまには変わった物も良いかと」
中佐は渡したタッパーを開けて一つつまむと口に放り込んだ。次のイカにも手が出ているので口に合ったようだ。
「これは美味しい。家でゆっくりと呑みながら食べたいな・・・中尉、これは一人で?」
「ニックが暇そうでしたので釣りに誘いました。イカも嬉しそうに捌いてましたよ。今回はどちらが作ったか分けていませんので」
タッパーの中身は神の使徒とロシア皇帝が釣って調理した干しイカが混在している。どのイカがどちらなのかは俺にもわからない。
「・・・この干しイカ、宮内省を経由して陛下に献上されるべき代物では?」
「考えたら負けです。おやつを作る度に献上なんて現実的ではありませんよ。それより舞のスキルですが・・・」
俺は果たすべき目的、舞のスキルについて報告した。使いこなした場合の汎用性が非常に高い事と、意欲的に修練しておりかなりの早さで慣れていっている事も話した。
「対モンスター戦で攻撃手段が無いのが欠点ですが、優秀な盾役になるかと。どんな敵も空中に留め置いて移動を封じられますから」
「相手が遠距離攻撃持ってなかったら詰むな。流石中尉の妹と言うべきか」
もし魔法やプレス系の遠距離攻撃を受けても、慣性の方向を逸らして外す事が出来るのでモンスターは完全にお手上げ状態となってしまうだろう。
「スカウトして軍属にしたい所だが・・・」
「スキルを秘匿するなら、まだ義務教育の舞を軍属にするのは難しいでしょうね」
俺という前例はあるが、それは大人にも負けない戦闘力があると証明して反対意見をねじ伏せた結果だ。舞も同じようにするならば、軍属にする根拠であるスキルを明かす必要がある。
「玉藻様のように民間の協力者としても、未成年の安全ガーと叩かれるだろうなぁ」
「文部省あたりがまた騒ぎそうですね」
現場で最善と思われる判断も、外野からの批判に晒されるので実行するのが難しい。舞でもこれなのだから、アーシャはもっと難しいよなぁ。




