第五百十二話
「玉藻様、もう夜も遅くなっています。検証は明日為された方がよろしいかと」
「そうですね。つい熱中してしまいました」
二人のスキルが応用が効く物だったのでついのめり込んでしまった。しかし、舞とアーシャは今日も学校に行かねばならない。あまり夜更かしさせては後が辛くなる。
「頼んでおいて悪いが、続きは舞とアーシャが学校から帰ってからにしよう」
「ええっ、舞も休みたいなぁ」
「舞ちゃん、私も休みたいですけど我儘言ってはいけないわ」
スキルの検証が楽しかったのだろう。舞はもっとやりたがったが、それをアーシャが窘めた。二人が揃って休んだりしたら勘繰られるだろう。
「父さんと母さんも仕事でしょう、早く寝た方が良い」
「そうだな。優、後は任せたよ」
両親と舞、ニックとアーシャは家屋に戻って行く。俺と関中佐はそれを見送り迷い家から出る。そして妖狐化と女性体を解いた。
「舞はチートなスキルを授かりましたね。予想が見事に当たりました」
「先の検証結果だけでもかなり有用だと思うが、中尉は他にも何か活用法があると考えているのだろう?」
「ええ。舞のスキルが俺の予想通りの効果を発揮出来るなら、ですが」
二人のスキルについて話しながらダンジョンの出口に向かって歩く。時折突撃豚が突撃してくるが、躱して蹴りを叩き込めば魔石に変わる。
「アーシャのスキルは漏れても誤魔化せそうなのが幸いですね。スキル名だけ見ればただ遠くを見るだけのスキルと判断されるでしょう」
「それだけなら双眼鏡で代用出来るからな。便利ではあるが道具で代用が効く微妙なスキルと思われそうだ」
アーシャの転写を確認していなかったが、多分思い浮かべた画像を紙などに写すスキルだろう。こちらを全く確認しなかったのは失敗だった。まあ、二人が帰ってきてから検証すれば良い。
ダンジョンを出て元居た部屋に戻った。時計の針は二時過ぎを示している。夜中までここに居たというアリバイは作れた。もう帰っても良いだろう。
「仕事は終わったので戻りたい。タクシーの手配を頼む」
「はい、少々お待ち下さい」
中佐が部屋の前を守る衛士さんにタクシーの手配を頼んだ。と言っても、彼がタクシーを呼んでくれる訳ではなく総務の担当に連絡して呼ぶよう手配してくれるという事だ。
流石にこの深夜に宮内省の車を出して貰う訳にはいかない。宮内省付きの運転手がまだ居るかも不明だし、陸軍から迎えの車を手配すれば良いじゃないかと不快に思われるだろう。
俺や中佐のスマホで呼ばないのは、ここの総務担当に俺達がこの時間にタクシーで帰るという証人にする為だ。
「関中佐、滝本中尉。タクシーが到着したそうです。移動をお願いします」
「ありがとう。世話をかけたな」
「いえ、お役に立てたならば光栄の極みであります」
綺麗な敬礼を見せた衛士さんに見送られて玄関に向かう。待っていたタクシーに乗り込み迎賓館に向かってもらった。
「中尉、遅くまでご苦労だったな。今日は学校も休んでゆっくり寝ると良い」
「いえ、中佐こそ遅くまでお疲れ様です。中佐、無理はなさらないで下さいね」
運転手にも俺達の事を印象付けて、俺だけ迎賓館で降りた。中佐は仮眠して仕事と言っていたけど、身体を壊さないか心配だなぁ。




