第五百十話
「論より証拠だ。舞、これを投げるから『慣性なくなれ』と念じてくれ」
「うん、やってみる!」
俺はテーブルに置いてあった柘榴の実を手に取ると舞に向かって山なりに投げた。舞には当たらないコースに投げたので、もしスキルが発動しなくても心配ない。
「なくなれ、なくなれ、なくなれ・・・あっ、落ちた!」
「成功だな。投げられた柘榴は、投げた勢いで飛んでいる。だから、その勢いである慣性を無くせば重力に従って落ちる訳だ」
皆は落ちた柘榴を面白そうに見ているが、関中佐だけは深刻そうな顔をしている。流石は中佐だ。俺のように前世の知識という反則が無くてもこのスキルの壊れ具合に気付いたみたいだ。
「玉藻様、舞ちゃんのこのスキルは先だって議論していた問題の解決策になるのでは?」
「スキルを自在に使えるようになれば、強力な護りとなりますね」
銃弾も火薬の膨張で押し出されて得た慣性で飛んでいる。その慣性をスキルで奪ってしまえば、弾丸は重力に捕まり地面に落ちるしかない。
「しかし欠点もあります。多分慣性を奪う対象を認識する必要があるかと。まあ、それを補うのがもう一つのスキルだと予想してます」
俺は関中佐の耳元で一つお願いをすると、再度柘榴の実を手に取る。
「舞、次はもう一つのスキルの検証だ。『慣性無くなれ』と念じながら『範囲を私の周りに』と念じるんだ」
「うん、やってみる。慣性無くなれ、範囲を私の周りに、慣性無くなれ・・・」
再び投げられた柘榴は、舞の手前一メートル程の場所でストンと落ちた。それと同時に舞の背後から投げられた柘榴も床に落ちた。
「えっ、玉藻ちゃん、何がどうなったの?」
「舞ちゃん、後ろから投げられた柘榴を見てなかったわよね?」
俺が柘榴を投げると同時に、舞の背後に回った関中佐が柘榴を投げたのだ。当然舞はそれを知らなかったのだが、中佐が投げた柘榴も見事に慣性を奪われていた。
「それが舞のもう一つのスキル、範囲制御の効果ですよ。本来単体にかけるスキルの効果範囲を、自身の周辺に変化させたのです」
前世のRPGで言うならば、単体に効く魔法を全体魔法に変えてしまうような物だ。今回は舞自身のスキルの範囲を変えたが、恐らく他人のスキルにも有効だろう。
「自身が意識せずとも、飛び道具を全て無効化してしまう・・・要人護衛に効果的なスキルだな」
「宮内省が知ったら、絶対にスカウトしてきますね」
俺が銃という飛び道具に対する警告を出したばかりなのだ。それに対する対抗スキル持った人物が現れた!なんて知ったら絶対に欲しがる。
「玉藻お姉ちゃん、私、アーシャちゃんを守れる?」
「ああ、かなり強力な守り手になれるな。しかも、使い方次第では更に強力な威力を発揮するだろう」
例えば全身強化のスキル持ちが居たとする。しかし舞の範囲制御で強化する範囲を右手の小指に変更したら?
「これは着せ替え人形と同レベル、若しくはそれ以上のぶっ壊れスキルになる可能性が高いなぁ・・・」
スキルは神様も関与出来ないから偶然だろうけど、兄妹揃ってぶっ壊れスキル保有者って・・・




