第五十一話
あの勧誘鬼ごっこ騒動から一週間、俺はまあまあ平穏な日々を過ごす事が出来た。あの連中は俺の地元が2015ダンジョン付近という事を知らないので、変わらず2222ダンジョン付近を張っている。
2015ダンジョンは人気が無く地元で活動する探索者はほぼ居ない為、たまたま地元に住んでいた数人からの勧誘を受けただけで済んだのだ。そして彼等は勧誘のライバル達に俺の情報を流す事は無かったので、勧誘地獄から逃れる事に成功した。
「母さん、ダンジョンに行ってきます」
「行ってらっしゃい。あら、今日は女の子で行くのね」
「勧誘よけでこの姿にするの。地元で勧誘合戦が始まったら目も当てられないから」
今日は久しぶりに2015ダンジョンに潜るつもりだ。人気が無いとはいえ、無人という訳では無い。ギルドに男の姿で顔を出し、ここが地元だと拡散されるのは防ぎたい。
「いっその事、普段から女の子で過ごさない?」
「女の子なら舞が居るでしょ」
「可愛い娘は多ければ多い程良いのよ。あっ、可愛い息子が要らないという訳じゃないわよ」
そう言って抱きしめられる。普段から受けている愛情は十分に感じている。俺は母さんを、父さんと舞を嫌う事は絶対に無いと断言出来る。
「それじゃあ行ってきます。お土産は豚肉でいいよね」
「一番のお土産は優の無事よ。無理はしないでね」
母さんの暖かい言葉に送られて家を出る。この家に転生させてくれた事には女神様にお礼を言いたい。
相変わらず閑散としているギルドを抜けてダンジョンの入口へ。入ろうとすると入口に居たギルド員さんに呼び止められた。
「随分と軽装だが、戦闘系スキルは持っているのかな?」
「いえ、戦闘系スキルはありませんが特異体質なので。確認しますか?」
手を差し出すと握ってきたので少しづつ力を加える。ギルド員さんの顔が歪んだので力を緩めて手を放した。
「いたたたた、この力なら素手でも大丈夫だな。だが無理はするなよ。先日氾濫を起こしかけた奴が居たらしくてな。防止策を講じろとの命令で声掛けをやっているんだ」
「それは大変ですね、氾濫しなくて良かったです。お勤め頑張って下さいね」
「あっ、ああ、ありがとう。気を付けて探索してくれ」
微笑んで労うと、ギルド員さんは顔を真っ赤にしていた。我ながら女体化した俺は美少女と言える顔立ちなので、その気持ちはよく分かる。
ダンジョンに入り下への最短距離を走る。目指すは五階層の奇襲ヘビだ。魔石を集めて武器を買う資金にする。本当は落とし亀を乱獲したかったのだが止めておく。
五階層に向かう途中の階層や五階層で不自然な動きをする探索者をチラホラ見かけた。恐らくは玉藻を探しているのだろう。
俺が軍の人間でも捜索を命じる。フリーの獣人というだけでもその価値はある上に初となる狐獣人だ。放って置く訳が無い。
俺は女体化したまま奇襲ヘビを狩り、最後に一階層でお土産の豚肉をゲットして魔石を換金。トラブルもなく帰路についた。
軍による玉藻の捜索に芸能事務所やクランの勧誘合戦。ほとぼりが冷めるまで大人しくしていた方が良さそうだ。中間試験も近い事だし、勉強に専念する事にしよう。




