第五百話
話すべき事は話したので妖狐化と女性体を解き宮内省から退出する。外務省では男に戻り忘れるというポカをやってしまったが、流石に同じミスはやらかさない。
「中尉、部員の時間が取れる時に兵器の話をして欲しい」
「長くなりますよ。書面に纏めて提出致しましょうか?」
「いや、話を直接聞いたほうが良い。疑問点や詳しく聞きたい点を質問出来るからな。それに、書面に残すと漏洩が恐い」
口で説明すれば録音されない前提だが話の内容は部員さん達の記憶にしか残らない。しかし、書面で提出したら盗み出される可能性もあるし、コピーされて情報が漏洩した事が発覚しないという事もあり得る。
それを考えると、最もセキュリティの高い情報伝達手段は人同士の伝言という事になる。電子的に送るのもハッキングされる可能性を考えると安全とは言い切れないのだ。
「滝本中尉、お帰りなさい。ついでに中佐もお帰りなさい」
「おい、俺はついでかよ!」
情報部は今日も平常運転だ。ここの長である筈の中佐への対応が酷い。
「そりゃそうですよ。中尉は美味しいおやつの差し入れまでしてくれますからね」
「それに見ていて癒されます。そんな滝本中尉に中佐が勝てるとでも?」
即座に肯定され、次々と行われた口撃に関中佐は呆気なく撃沈した。
「中尉、外務省では大変だったね」
「よもや我々の中尉にプロポーズするなんて・・・最後通牒無しでいきなり宣戦布告するべき案件ですな」
「そんな事で開戦って、冗談になりませんよ!」
大英帝国軍人が大日本帝国軍人に求婚しただけで同盟破棄や最後通牒すっ飛ばして開戦なんて洒落にならない。
「中尉、わが帝国の神々の一柱から遣わされた使徒様を連れ去られようとしたのだよ?」
「宣戦布告無しで強襲するレベルだからね?神を強奪するに等しい行為なのだから」
言われてみればその通りかもしれない。彼は俺が神使だと知らなかったとはいえ、やった事は神使を連れ去ろうとした訳だ。
逆の立場で言うと、日本の女性がローマ法王にプロポーズして日本に連れ帰ろうとしたようなものだ。そりゃキレられても文句は言えない。
「我々下の者にまで気遣ってくれる優しい神使様を取られてたまるか!」
「いや、すぐに断りましたしイギリスになんて行きませんからね」
それ以前に場所がイギリスだろうと日本であろうとニウエだろうと、嫁入りする事は絶対にあり得ない。俺は可愛いお嫁さんをもらって、ダンジョン攻略後は悠々自適に過ごすつもりなんだ。
「おやつと言えばこの間の干し芋、あの量を作るのは大変だっただろう」
「いえ、作ってみたいという人が居たので二人で作りましたから。青い蓋のが俺で赤い蓋のがその人のでした」
結構な量を作ったけど、もう全滅しているからな。また補充しておかないと。いや、別の物を作る方が良いか・・・
「どちらも凄く美味しかったよ。その人も料理が上手いのだな」
「いえ、ニックは干し芋作りは初めてでしたよ。前に吊るし柿も上手に作っていたので向いているのかもしれませんね」
「えっ・・・ニックって、・・・ま、まさかニコライ皇帝陛下とか言わないよね?」
「そのニコライ皇帝陛下ですよ」
その後、情報部の部室内は阿鼻叫喚の大混乱に陥った。
作者「ニウエってどこやねん」
優「ニュジーランドの北にある島国で、人口1900人足らずの小国」




