第五十話
「いたぞ、あっちだ!」
「塀を越えるぞ、回り込め!」
狭まりつつある包囲網を抜け、何とか逃走を続ける。ヘラクレス症候群のお陰で走力も強化されている為追手から逃げられてはいるが、人海戦術で包囲する戦法で追い詰められつつある。
壁を蹴って建物の屋上に上がって逃げれば包囲を抜けられそうだが、不法侵入になる上に目立つので居場所を晒す事になる。
「よし、後は包囲を狭めれば捕まえられるな」
「配信に出せば映えると思ったが、こんな身体能力があるなら戦力としても有望だ。絶対うちに入れる!」
逃げ回った事が追っ手にやる気を出させてしまったようだ。こうなったら最後の手段を使うしかない。俺は覚悟を決めて有名ハンバーガーショップに飛び込んだ。
注文するカウンターには目もくれずお手洗いに直行する。内部に人が居ない事を確認して女性体のスキルを起動した。そして何食わぬ顔で手を洗いトイレから出てカウンターに並ぶ。
「こっちに来たはずだ!」
「逃げ場はこのナクドナルドしかない、入口を固めて中を探すぞ」
次に注文出来るというタイミングで追手が到着した。続々と店の前に人が集まる。俺は素知らぬ顔で大きく表示されているメニューを見た。
「次のお客様どうぞ」
「ポテトの小とオレンジジュースでお願いします。あっ、店内でいただきます」
店員さんに注文し代金を払う。注文票を受け取り引き渡しを待っていると追手が数人入ってきた。
「見回した感じ、一階には居ないようだな」
「あっ、おい、あの娘を見ろ」
引き渡しカウンターの前で立っている俺を追手の一人が指差す。もしかして俺のスキルを知っていて女体化している事がバレたのだろうか。
「ねえねえ、俺、結構腕が立つ探索者なんだけどちょっとお話しない?ダンジョンでの様子とか聞きたいでしょ」
「ド阿呆!可愛いからナンパしたい気持ちはわかるが、今は優先する事があるだろっ!・・・で、お嬢さんお名前は?アドレス交換しようよ」
どうやらバレた訳ではなく、単なるナンパらしい。そして注意してきた奴もさり気なくナンパしてきているのだが・・・
「お前ら、いい加減にしろっ!お嬢さん、すいませんね。こいつらはすぐに引き取りますから」
呆気に取られて反応出来ずに居ると、別の奴が二人を引き摺って店外に出ていった。店内捜索するメンバーから外されるようだ。
「211番でお待ちのお客様、お待たせ致しました」
「あっ、はい」
ポテトが揚がったようなので、注文票を見せてジュースと共に受け取る。窓際の空いている席を見つけて座り、のんびりとポテトを摘んだ。
「2階には居なかったぞ」
「3階にも居なかった。トイレにも居なかったし、店外に出たとしか思えない」
店内の捜索をしていた追手が俺を見つけられず慌てている。注文もしない追手に店員さんが迷惑そうな視線を向け、追手達は出ていった。
「店内には居なかったぞ」
「出てきてもいないぞ。中で隠れているのでは?」
「トイレも探した。女子トイレは探せなかったが、まさかそこには居ないだろう」
焦る追手達も女子トイレに踏み込まない理性は残っていたらしい。少し話し合った後俺の捜索に散って行った。
俺はポテトとオレンジジュースを堪能した後そのまま帰宅した。念の為帰るまで女体化を解いていなかった為舞と母さんに捕まり、服装や髪型を次々と変えられ疲れ果てるのであった。




