第四百九十九話
「さて、話を戻すがのぅ。妾の前世では手の平に収まる小さな拳銃という物もあったのじゃ。威力は相応じゃが、人の命を奪うには十分じゃったようじゃよ」
「むぅ、そんな物を隠されて接近されたら防ぐのが難しいですな」
俺の説明に太政官さんが眉間に皺を寄せて悩む。でも、デリンジャーは小さいとはいえ銃と分かるからまだやりやすい。
「変わり種では口紅型の銃という物もあったぞえ。一発しか撃てぬ上に接触させて撃つという使い所が難しい銃じゃが、見た目では普通の口紅と変わらんかったようじゃ」
「そんなの、持ち物検査を実施しても分からないじゃないですか!」
衛士さんの一人が悲鳴をあげた。高貴な方々を護る立場としては叫びたくなるのもわかる。
「襲撃者の安全を無視するならば、もっと簡単な手立てもあるのじゃよ。テレビカメラの内部に爆薬を仕掛けて爆発させれば高い確率で暗殺は成功するじゃろうな」
「そ、そんな事もあったのですか?」
「テレビカメラに、というのは妾は聞いたことが無かったのぅ。じゃが、腕時計や万年筆に爆薬を仕掛け、誰かが拾うた瞬間破裂するという物はあったわ」
侍従長が顔を真っ青にして聞いてきた。腕時計や万年筆なんて、マスコミならば殆どの者が所持している。そんな物に爆薬を仕掛けられたら防ぐ方法なんて持ち物全て持ち込み禁止にするしかない。
「まあ、物が小さいだけに威力も小さく、火傷を負わせる程度だったらしいがのぅ。八十年前の事例じゃし、現在は火薬の威力も高い故軽視は出来ぬ」
その戦法が使われたのが第二次世界大戦の時。それから火薬の威力は数倍となっているので、同じ物でも破壊力は高くなるだろう。
「これらは妾の前世の歴史じゃ。この世界でも同じような武器が作られておるかは英国情報部から引き出す方が良かろうて」
「そっ、そうですな。そのような兵器がこの世界でも作られているとは限りませんからな」
俺と衛士さんのやり取りに顔面蒼白だった一同の表情に少しの安堵の色が見える。本当は今日その辺を聞き出す予定だったのに、ハプニングで出来なくなってしまった。
「ああ、忘れておった」
取り敢えずお開きという空気になった所で、一つ言い忘れていた事を思い出した。何を言うのかと宮内省組が緊張している。
「この世界でもライフルはあった筈じゃ。あれを使った狙撃には注意するべきじゃ。射程距離が長い故、警戒の外から狙われかねん」
「玉藻様の世界ではどれ程の距離から撃てたのでしょうか?」
「平均は大体千五百メートルじゃったが、世界記録は確か三千四百五十メートルじゃ。普通ならその距離で命中させる者はほぼおらぬじゃろうが、この世界ではスキルがあるからのぅ」
遠距離狙撃に適したスキル、なんて物もあるかもしれない。そこも英国から情報を引き出せたら助かるのだが。
「我ら陸軍が銃を使わなかったのは間違いだったか・・・」
「陸軍の主敵はモンスターじゃ。敵に効かぬ武器を使わぬのは道理に適っておると妾は思う」
しかし、このままで良いとは思わない。今後世界情勢が変われば国対国の戦いが起こる可能性は高いのだから。




