第四百九十八話
関中佐と俺は衛士さんに会議室の一つに案内された。一緒に外務省での会議に出ていた職員さんは別方向に消えて行った。多分自分の部署に帰ったのだろう。
部屋に入ると執事長さんや太政官さん、前に迷い家の入った衛士さん達が揃っていた。衛士さんが外務省を出る前に連絡して準備していたようだ。
「御足労いただき感謝致します。今後脅威となり得る銃についてご教授願います」
侍従長さんが口上を述べると、全員が揃って頭を下げた。完全に滝本中尉ではなく玉藻様への対応になっている。
「侍従長殿、この姿の時は陸軍中尉への対応をお願いします・・・と言っても難しいですかね」
対応についてお願いしようとしたが、全員の表情に困惑の色が浮かんだのでいきなりは無理だと判断した。情報部の人達は直ぐ様対応してくれたのだが。
考えてみれば、情報部とは玉藻と判明する前から軍属の滝本として接していた。その下地があった上、彼らはあらゆる状況に対応する選ばれし猛者なのだ。
そんな情報部員さん達とほぼ接点が無い衛士さん達を同列にして比べるのは不公平か。それに、恐らく皇族に直接仕える宮内省の方々は皇族に対する忠誠心も高いだろう。皇族相当とされている玉藻と普通に接しろというのも酷な話だ。
「一介の中尉に侍従長殿や太政官殿が敬語を使うのは違和感が出ます。誰かに聞かれて追及されるのもマズイですね」
俺は女性体と妖狐化を発動して玉藻に変わる。見られたら何故滝本中尉ではなく玉藻が居るのだと突っ込まれるかもしれないが、宮内省のトップが陸軍中尉に敬語使ってる事を誤魔化すより誤魔化し易いだろう。
「銃について話すのじゃが、この話は妾の前世で得た知見なのじゃ。この世界と全く同一とは限らぬ。まあ、同じような進化や使用法を辿っておるとは思うがのぅ」
「玉藻様、異世界という事は全く別の世界と解釈してよろしいでしょうか。もしそうですと、その世界の話はこの世界で利用出来るのでしょうか?」
太政官さんは異世界を全く別の世界と認識しているようだ。これは平行世界の概念から説明しないといけないかな?
「妾の前世はダンジョンが来なかった世界じゃ。故に1895年迄は全く同じ歴史を辿っておる。ダンジョンが無く戦争が繰り返された世界じゃった・・・この世界も人と人が争うようになれば、人に有効な兵器が発達すると妾は睨んでおる」
「それが銃である、という事ですな」
「銃、そして銃を大型化した砲熕兵器じゃな。八十八ミリ砲や百二十ミリ砲を積んだ装甲を施した自動車が戦場を駆けて戦ったのじゃ」
今回の会談の趣旨はテロや暗殺対策なので戦車の話は余談だが、そういう兵器まで登場したと知っていて損は無いだろう。
「軍艦の艦載砲並みの砲を自動車に搭載、ですと!」
「ダンジョン攻略には全く使えないが、戦争ならば使い道が・・・」
驚き呆然とする宮内省組に対して、関中佐は戦車の運用方法を考えているようだ。この辺の情報は後で渡しておいた方が良さそうだな。




