第四百九十七話
「女性体発動してたの忘れてました。ところで中佐、大盾が邪魔なので男に戻りますね」
「いや、そのままで良いだろう」
男に戻れば大盾は消えるので戻ろうとしたら、中佐に止められた。場所を食う大盾をしまった方が良いと思うのに、何か理由があるのだろうか。
「理由をお聞きしても?」
「その方が面白そうだ(前回の謁見では例の件があって中尉の衣装をきちんとご覧になられていなかった。この機にお見せするのも良いだろう)」
「中佐、本音と建て前が逆になってます」
咎める意思を乗せて睨むと、中佐は大げさに横を向いて視線を逸らした。
「それに、陛下にお見せするにしても陛下の前で換装すれば良いのでは?」
「真面目な話をするとな、その姿は記憶に残りやすい。今、滝本中尉という人物と黒ゴスという衣装が結び付きつつある」
つまり、俺のトレードマークが黒ゴスとなりつつあると。それは出来れば避けたい所だが、中佐がそれを行うという事は何か意味がある筈だ。
「中尉は名と顔が売れている。美形だからすぐに覚えられてしまう。これは広報的にはプラスだが、諜報活動をする上では大きなマイナスとなる」
「あっ、だから黒ゴスのイメージを定着させてそれ以外の服装の時に分かりにくくしようという事ですね」
有名になった者は諜報活動に向かない。すぐに身元がバレてしまうし、SNSが発達した現代では居場所が拡散されてしまう。
その点では俺は諜報員失格と言える。全国的に名と顔が知られているのだから。かと言って、今更それを覆す術はない。これから一切マスコミの前に出ないようにしても、ネット上で俺の映像が消える事は無いのだから。
以前一度だけTHKに出た時、半年以上経ってもそれを覚えていた人が居た。今の知名度はその時の比ではない以上、俺が完全に忘れられるのは無理だろう。
しかし、少しでも緩和させる事は可能だ。黒ゴス=滝本中尉という繋がりを無意識に記憶させ、普通の服≠滝本中尉と思わせるのだ。
「まあ、中尉にはダンジョン攻略を行って貰うからその辺はあまり考慮する必要は無いのだがな。この調子では普通に出歩けなくなりそうなのでね」
妙なファン層が形成されている以上、中佐の危惧は十分にあり得る。自惚れている訳ではなく、広報のポスターへの需要という実例があるのだ。
「中佐、ありがとうございます」
「小細工した所でどこまで効果があるか分からないし、玉藻様の事が公表されたら吹き飛ぶ程度の策だよ」
少し顔を赤くし、視線を逸らしたまま返事をする関中佐。巫山戯た言動で真意を隠すのも諜報の世界では必須なのだろうな。
と、関中佐の凄さを改めて思い知らされて到着した宮内省では。
「申し訳ありません。防具といえども事前に許可を得ていない武具の持ち込みは・・・」
まあ、そりゃそうだよね。この訪問は会議が予定外の時間に終わったので行われている。なので事前に許可なんて取っていない。
結局、俺は女性体を解き第一種軍装で宮内省を歩くのだった。




