第四百九十四話
舞とアーシャちゃんが満足するまで尻尾をモフった翌日、俺は学校を休んで情報部に向かった。部室に入ると、先輩方は二つのグループに分かれていた。
一つのグループは表情が明るく、キビキビと仕事を熟している。もう一つのグループは表情が死んでおり、明るいグループを睨んでいる人も居た。
関中佐も後者のグループで、恨めしそうに机の上に置かれた物を見ている。何かと思ったら、昨日俺が差し入れに使ったタッパーだった。中身は一つも無くなっている。
「おはよう、滝本中尉。今日は中佐のお守りで大変だと思うけど頼んだよ」
「はい、微力を尽くします。それにしても、この空気はどうしたのですか?」
上機嫌の先輩のこの状態となった理由を聞いたのだが、それに答えたのは関中佐だった。
「こいつら、中尉の干し芋を残さず食べてしまったんだ。上司である俺に残しておく位の配慮はされて当然だよな!」
「中佐、こういうのは早い者勝ちですよ。中佐だって過去に中尉の干し芋を独占しようとしたじゃないですか!」
「あれは未遂だ!結局皆に食べられただろう!」
つまり、昨日差し入れた干し芋を居た先輩方で残さず食べてしまい後で帰ってきた先輩方や中佐は食べられなかったという事か。
「中佐、差し入れならばまた作ってきますから。今は会議に専念しましょう」
「おおっ、そうだった。そろそろ出ないと間に合わないな。中尉、行くぞ。それと次の差し入れは多めにな」
どさくさに紛れて増量を要求してきた中佐と共に部室を出て車に乗り込む。門の外で張っていたマスコミが気付き寄ってこようとしたが、門衛に阻止された隙に車は公道に出た。
「追ってきますね」
「放っておこう。どうせ外務省には入って来れない。行き先はバレても問題ないだろう」
車は霞が関に入り外務省の門を潜る。追ってきたマスコミは門衛に止められて入れない。押し問答をしているようだが無駄に終わるだろう。
職員に案内されて会議室に向かう途中、中佐のスマホにメッセージが届いた。確認した中佐がスマホを弄り、画面を俺に見せてきた。
『英国は冬馬パーティーのスリープシープ討伐に他の探索者の関与を疑っている。玉藻様の参加を伝える事になりそうだ』
英国は三十二階層まで到達していない筈だが、スリープシープの情報は公開されている。羊毛を処理する為に火魔法の使い手がいると予想しているのだろう。
俺は無言で頷いて玉藻の同行をバラす事に賛成だと伝えた。玉藻が火の玉を操っている事は知られているので、その程度なら問題ないだろう。
日本が英国に情報を渡すのは、欧州における銃の活用と対策についての情報と交換だからだ。日本でも海軍は銃を使用しているのだからそちらから得るという手もあるが、陸軍と海軍は前世同様仲が悪い。
「こちらです、お入り下さい」
職員さんに促されて会議室に入る。前世と違う歴史を辿った欧州の現状、聞くのがちょっと楽しみだ。




