第四百九十三話
「明日の会議の打ち合わせをと思ったのですが、中佐は不在ですか?」
「ああ、舞ちゃんの事を質問した記者の件で出ている。戻るのは遅くなるようだよ」
この間の記者会見で舞の進学先を聞いてきた記者か。調査の進展があったのだろうか。
「中尉はもう上がって良いと思うぞ。中佐を待つ必要は無いだろう」
「いえ、何も打ち合わさないという訳にもいきませんし、中佐が出た理由も妹に関する事ですから・・・」
妹の安全の為に夜遅くまで上司に仕事をさせておいて、部下であり当事者の兄である俺が仕事を終えて帰ってしまうというのは流石にマズイだろう。
「明日の会議、中尉が発言する事が多くなるだろう。中佐を待って寝不足な頭で出席する方がマズイからね」
「そうそう、中佐なら事前に想定出来るような質疑ならば打ち合わせ無しでも上手く捌けるし、想定出来ない内容なら打ち合わせられないから変わらないって」
「そうですか・・・では、お先に失礼します」
先輩方にここまで言われて我を通すのもなんなので、アドバイスに従い迎賓館に戻る事にした。空になった二つのタッパーを回収し、挨拶をして退出する。
元々打ち合わせは仕事として予定していた訳ではなく、事前に準備した方が良いかと思い訪ねてきたのだ。これが予定されていた物ならば中佐は出ずに部下に行かせるか俺に対する指示を残していただろう。
「しかし、中佐への信頼は凄いよな」
迎賓館に向かう車の中で独りごちる。先輩は、中佐なら打ち合わせ無しの会議でも上手く立ち回ると信じて疑わなかった。それだけ中佐の能力を信頼しているという事だ。
俺も中佐のように仕事に対する信頼を得られるよう頑張らねば、と気合を入れた所までは良かったのだが。前世における銃の使用事例を纏めて資料にしておこうという考えは実現出来なかった。
「玉藻お姉ちゃんの尻尾は至高。異論は認めないっ!」
「玉藻お姉さんの尻尾を二本も・・・こんな贅沢、許されるのでしょうか?」
借りている部屋に入ると、アーシャが遊びに来ていて舞と雑談していた。舞は帰った俺を見るなりモフモフを要求してきた。
可愛い妹の頼みを断るという選択肢は俺には存在しない。誰かが入室してもすぐに見られないよう奥の寝室に移動して妖狐化を発動。舞が二本の尻尾をアーシャに譲り現在に至る。
「アーシャちゃん、玉藻お姉ちゃんの尻尾はレベルが上がるとモフモフ度が上昇するんだよ」
「では、今よりもっとモフモフになるのですね。このモフモフよりも更に上のモフモフなんて存在するのでしょうか・・・」
「舞が言うには、長さと太さが増えて手触りも良くなったそうだ。自分では分からないけどね」
長さも太さも見た目では変わっていないように見える。計測していた訳でもないので証明出来ないが、尻尾ソムリエの舞が言うのだからそうなのだろう。
「お姉ちゃん、頑張って尻尾を九本に!」
「九本になる前にダンジョン制覇しそうだなぁ・・・」
ダンジョンの階層がどこまであるかは知らないが、増えるペースが遅いので先に制覇しそうな気がする。その為に装備の更新が必要だけど、上手く見つかると良いな。




