第四十九話
「私がここのギルドでギルド長をやっている田中です」
「はじめまして、THK編成局の大空です」
「はじめまして、滝本優です」
自己紹介の後、差し出された名刺を受け取る。俺は名刺など作っていないので名刺入れすら持っていない。手に持ったままで話をする事にする。
「俺に関する問い合わせが多数来ているとお聞きしたのですが・・・」
「ええ、相当来ていますよ。芸能事務所や配信者事務所、探索者クランからもです」
クランとは大人数のパーティーのような物だ。中には事務所を構えて会社のようになっている所もある。
「芸能界に興味はありませんし、ダンジョン配信をするつもりもありません。また、現状ソロでの活動を予定しているのでクランにも入りません」
芸能界入りなど論外だし、妖体化があるから配信もしない。同じ理由でクランやパーティーに入るつもりもない。将来的にはパーティーに入るのだろうが、多分軍と組む事になるだろう。
ダンジョン内で安全に寝泊まり出来る上、物資の持ち込みや持ち帰る戦利品も制限無しなんてぶっ壊れスキルだ。国の保護でもなければ安心できない。
「ギルドとしては探索者稼業に専念してくれるのは嬉しい事だ。しかし、スキル的には芸能界入りに最適な人材とも思ってしまうな」
「テレビ映えするとは思いましたが、彼のスキルは芸能に適したスキルなのですか?」
ギルド長は俺のスキルを知っているようだ。ステータスの確認を軍が行っている以上、データ化されているだろう。ギルドは軍の組織なので閲覧できてもおかしくない。
「確かに、言われてみれば芸能界入りするのに便利なスキルですが・・・」
女性体で男性としても女性としても活動出来る上、衣装のチェンジを一瞬で行える。舞台やコンサートで使えば面白い演出が出来るだろう。
「差し支え無ければお聞きしたいものですね」
大空さんが期待に満ちた目で田中さんを見るが、田中さんは黙って俺を見る。言う言わないは俺次第ということだろう。
「まあ、それは秘密と言うことで。THKさんにはご迷惑かと思いますが、俺に関する問い合わせには個人情報なので言えないとお願いします」
「少々残念ですが、そうするとしましょう。芸能界入りしたのなら出演をお願いしたかったのですがね。あれだけの反響が来ることは早々無いですから」
二人に挨拶をして退室する。案内されてきた道を逆に辿りギルドの受け付けに戻ってきた。
「あっ、来たぞ!」
「ちょっと話したいけど良いかな?」
俺が姿を現した途端、受け付け付近に居た人達が寄ってきた。俺は反射的に身を翻し離脱を図る。
「ちょっ、待って!是非うちのクランに!」
「いやいや、君はモデルになるべきだ!」
「アイドルに興味あるよね、うちからデビューしよう!」
ギルドから出てもしつこく追いかけて来る人達は、俺をスカウトするのが目的らしい。後で知った事だが、俺がギルドに来た時に盗撮され、拡散されたそうだ。
それを見た連中がスカウトする為に待ち伏せ、話し合いが終わった俺に殺到したというのがこの追い掛けっこが始まった経緯だった。
このままトレイン状態で帰る訳にはいかない。さて、どうやって撒こうかな。