第四百八十九話 とある帝国大学附属学校中等部にて
黒田様は立ち上がり舞ちゃんに対して綺麗なカーテシーを披露した。その美しい所作に生徒の全員が見惚れてしまった。
「お初にお目にかかります、アナスタシア皇女殿下、滝本舞さん。私は黒田侯爵家次女の光と申します。滝本先生には姉の命をお救いいただきました。心からの感謝を」
「あっ、新潟に行った時の!」
舞ちゃんを庇ったのは、かつてお父さんが診察した女性の妹であった。初対面の舞ちゃんに好感度が高いのも頷ける。
「滝本家の皆さんは姉の診察の帰りに交通事故に遭遇し、原因を作った青木子爵家に罪を擦り付けられたと聞きました。当家を頼れば簡単に解決出来るものを、我が家と交わした守秘義務を優先し頼る事をしなかったともお聞きしています」
光さんの話を聞き生徒達の目の色が変わる。貴族家にとって健康問題は死活問題にもなり得る。当主や近い者の病状の情報なんて、使いようで多大な利益を生み出せるのだ。
ここで問題になるのが情報を扱う事になる医師の質だ。診察や治療の腕が良くても口が軽くては使えない。貴族家にとって口が固く腕が良い医師は金で買えないお宝なのだ。
だからこそその条件を満たしているお父さんは医師会にとって金の卵を産む鶏となり、あの騒動が起きてしまった。
「そ、それでも凄いのはその子の父親でその子ではないわ。皇女殿下の側近に相応しくないのは変わりません!」
「それ、本気で言われてますの?平民は特別な理由があろうとも大学部に合格出来るだけの学力が無いと転入出来ませんのよ」
帝国大学と帝国大学附属学校ではその性質が全く違っていた。帝国大学は純粋に学力が高くないと家柄が良くとも入れない最高学府となっている。
しかし、附属学校は逆に家柄が高くないと通えない貴族家と関係者の学校だった。稀に舞ちゃんのように平民でも特殊な事情で転入する者も居るが、その場合将来大学部に入学出来ると確信させる程の知力を求められる。
「えっ、そんなに厳しい条件だったのですか?」
「何故条件を満たして転入した舞さんが驚いているのか分かりませんが・・・上野さん、貴女にそれだけの学力がおありで?」
悔しそうに俯く伯爵令嬢を見るに、それだけの学力は持ち合わせていないのだろう。そして舞ちゃんが驚いていたのは、条件を満たしていると判断されたので特別に試験などを受けておらず知らされていなかったからだった。
「黒田の言う通り、滝本舞さんの入学と側近候補に関しては本人の資質によって認められている。上野、文句があるなら正式に上野伯爵家から文部科学省と宮内省に話を通すべきだな」
子供同士で相応しい、相応しくないと言い合った所で決定が覆る筈もない。三宅先生が言うように家から正式に抗議しないと何も変わらないのだ。
「今日はこれで終わりだ。今年はスキルを授かる特別な年だと自覚して言動に注意するように」
世間ではスキルを授かれば一人前と見られる。発する言葉の重みも変わるのだから自重しろ、と暗に伝え三宅先生は教室から出て行ったのだった。




