第四百八十八話 とある帝国大学附属学校中等部にて
「そこまでになさい、上野さん。帝国貴族の恥をそれ以上晒さないで頂きたいですわ」
「なんですって!・・・く、黒田様!」
「滝本さんのお父様は多くの人を救い、お兄様はダンジョン攻略で歴史に残る活躍をされています。それこそ、下手な貴族より遥かに帝国に貢献なされていますわよ」
アーシャでも舞ちゃんでもない、別の女生徒から制止された上野伯爵令嬢は声の主を睨むも相手が意外だったのか口を閉じた。その隙に窘める言葉を続けられたが、気を取り直した令嬢は反撃する。
「黒田様、百歩譲ってその功績を認めるとしましょう。ですが、それは全て平民の家族の功績で自身の物ではありません。伯爵家の血を持つ私の足元にも及びませんわ」
「それこそ、貴女自身の功績では無いでしょう。功績を成したのはご先祖様であり、貴女ではありませんわね」
黒田という令嬢の言葉を逆手に取って論破したと思いきや、直ぐ様ブーメランを投げ返された伯爵令嬢は顔を歪めたが言い返す。
「お言葉ですが、その父親の功績も兄もスキルによって成した物です。スキルとて神より授けられた物。厳密には自分の力ではありませんわ」
「そっ、そうだ!それにそいつの兄は特異体質で力が強いそうじゃないか。たまたまそう産まれたから活躍出来ただけじゃないか!」
伯爵令嬢の反論に、最初に言い掛かりをつけた生徒が援護射撃を行った。それを聞いた舞ちゃんは乱暴に立ち上がって叫ぶ。
「確かに兄は特異体質です。でも、それがどんな意味を持っているのか、知っていますか?」
強く責める口調の舞ちゃんに、教室の誰もが気圧される。そして頭上に見えないはてなマークを浮かばせた。力が強いという事意外に何があるのかさつぱり思い浮かばなかったのだ。
「兄の力はスキルではありません。つまり、産まれた時から力が強いのです。スキルが何故十四才になるまで授からないのか、一番有力と言われている仮説をご存知ですか?」
「確か、幼いうちにスキルを授かると、自制が出来ずに惨事を巻き起こすからだと言われて・・・」
スキルを授かる年の生徒を受け持つからか、三宅先生は知っていたようだった。そしてその理由を思い起こし、舞ちゃんが叫んだ話しの意味に気付いて絶句した。
「兄は幼い頃から私や両親を傷つけないようにと力を制御する訓練を怠りませんでした。両親の話では、二歳からやっていたそうです」
「二歳から・・・優お兄さんの苦労はどれだけの物だったのでしょうね」
普通ならば記憶も残らない幼少の頃からの訓練。それが容易い物だと思う者はおらず、誰もがアーシャの呟きに同意した。
「スキルにしても、兄は着せ替え人形で複数の武器を使いこなします。それは強力ですが、新たな武器を入手したら使いこなせるまで修練しています」
「その下地あってこその活躍なのね、流石は滝本先生のご子息だわ。父と姉に教えたら喜びそうね」
「えっ、滝本先生って、お父さんをご存知なのですか?」
自分を擁護してくれた黒田様と呼ばれた令嬢が嬉しそうに語った内容に、舞ちゃんは驚きを隠さなかった。
ああっ、二話で終わらなかった!
舞ちゃんを擁護した令嬢の正体は?!




