第四百八十七話 とある帝国大学附属学校中等部にて
優君が士官学校に行っている頃、舞ちゃんはアーシャと共に帝国大学附属学校中等部の校長室に居た。
「私が校長の仁内です。殿下にお通い頂けるとは光栄でございます。滝本さんも将来大学部入り間違いなしの才女。心から歓迎いたしますよ」
仁内校長のお世辞に愛想笑いで対応するアーシャと舞ちゃん。二人が心を無にして耐えていると、三十代前半と思われる男性教師が入室してきた。
「彼が御二方の担任となる三宅です。三宅先生、呉呉も失礼のないようにな」
二人は校長のお世辞攻撃から逃れられる事に安堵し三宅先生の後について歩く。教室に到着し、三宅先生を先頭に中に入ると生徒達の目がアーシャと舞ちゃんに集まった。
「先ほど伝えたが、転校生と留学生が入る事になった。アナスタシア殿下と滝本舞さんだ。質問は後にして、先にホームルームを終わらせよう。殿下と滝本さんは着席して下さい」
教室の中央に二人分空いた席が並んでいる。視線を受けながら二人は空いていた席についた。態々と教室の中央に席を設けたのは、万が一襲撃があった際にどの方向から来ても時間を稼げるからであった。
「では明日からの予定を伝える」
三宅先生は新学期の予定を淡々と告げていく。と言っても、進級しただけなので特にイベントがある訳でもないのですぐに終了した。
「連絡はこれまでだ。では、二人に質問がある者はいるか?」
先生がアーシャと舞ちゃんへの質問を許した瞬間、質問を求めて生徒全員が手を挙げた。その中の一人が当てられて立ち質問をしてきた。
「まさかとは思いますが、滝本さんは殿下の側近候補なのでしょうか?」
「そうよ。舞には私の側で支えてほしいと願っているわ」
無礼な質問に、すぐさまアーシャが強い口調で返答した。その勢いに質問した生徒は面食らうが、気を取り直して質問を重ねた。
「その娘は平民な筈。殿下には然るべき家柄の者が側近として付くべきです」
質問と言うより助言、の皮を被った要求にアーシャは不機嫌さを増した。そこに別の生徒が追撃を掛けてくる。
「彼の言う通りです。伯爵家、若しくは侯爵家かそれに連なる者で固めるべきです。平民の娘など論外です」
舞ちゃんのみならず、滝本家の面々を貶めるような発言にアーシャの怒りは増していく。しかし、発言した女生徒はそれに気付かず得意満面な表情でアーシャを見ている。
「察する所貴女は伯爵家か侯爵家の者でしょうか?貴女が舞さんより優れているとでも?」
強い意志で怒りを抑えて質問を返すアーシャ。女生徒がその怒りに 気付いて穏便に返答すれば良かったのだが、その娘は空気を読めなかった。
「勿論ですわ。伯爵令嬢たるこの私が平民に劣る事など何一つ御座いませんわ」
何を勘違いしたのか、誇らしげに語る伯爵令嬢。大多数の生徒はやっちまったと顔を青くし、一部の生徒は伯爵令嬢を頼もしそうに見つめるのだった。




