第四百七十六話
ともあれ滞在先となる迎賓館に移動する事に。今晩から滞在する事が決まったので移動してほしいと宮内省から連絡が来たそうだ。
ワゴン車に乗り関中佐と滝本家の五人で移動する。歩いても行ける距離ではあるが、俺達の顔はマスコミに知られているのでノコノコ歩いていたら記者の餌食になってしまう。
「滝本家の皆様、お待ちしておりました。ご案内致します」
迎賓館で待ち受けていたのは、何度か顔を合わせた事がある侍従長さんだった。天皇陛下付きの偉い人が待っていた驚きに両親と舞の顔が引きつる。
「侍従長殿直々とは恐れ入ります」
「本件はデリケートな案件ですからな。玉藻様の事を知らぬ者には任せられませんし、陛下からも頼むとのお言葉を頂きましたから」
侍従長さんが派遣されてきたのは天皇陛下の思し召しでもあるらしい。話をしながらも俺達は迎賓館の奥へと入って行く。
「この通路、通った覚えがあるんだよなぁ・・・」
内装なんて統一されているだろうから気の所為かもしれないが、歩いている通路に見覚えかあるような気がする。
そんな既視感を余所に侍従長さんが開いた扉に入る。広い部屋に置かれたいかにも高級そうな応接セットに座るよう促され、俺達は腰を下ろした。
すぐにメイドさんがお茶と軽食が乗ったワゴンを押してきて熱い紅茶を淹れてくれた。全員に紅茶と軽食を配膳すると一礼して部屋から退出する。
「滝本家の皆様にはこちらの部屋をお使い頂きます。後程部屋付きの者達に挨拶をさせます。その際にお願いがあるのですが・・・玉藻様の正体を部屋付きの者達に明かす許可をいただけませんか?」
予想外の申し出に俺は関中佐を見る。中佐も戸惑っているようなので、事前に言われていなかったようだ。
「理由をお聞きしても?」
「侍従達の目を気にして玉藻様になれないとなると、玉藻様の活動に支障を来すと判断致しました。選んだ者達は真偽判定スキル持ちによる確認を行ってあります」
侍従長さんが言う通り、侍従達の目を気にして玉藻になれないのは少し不便になるだろう。迷い家という超便利スキルを気兼ね無く使えるという点は大きい。
「俺は構わないと思いますが、中佐はどうでしょう?」
「侍従長のお墨付きであれば問題ないかと」
中佐も賛成のようなので、部屋付きの人達にのみ玉藻の正体を明かす事となった。
「ありがとうございます。今はお着きになったばかりなので間を開けた方が宜しいでしょう。後程部屋付きの者達を連れて参ります」
「私も仕事があるのでこれで。滝本中尉は明日は休暇扱いとなっています。明後日の朝迎えに参りますので」
侍従長と関中佐が相次いで退室し、部屋の中には俺達一家だけとなった。俺達は気が抜けて深い溜息を吐いた。
「こんな豪華なお部屋で落ち着けるかしら・・・」
「慣れるしかないのだろうけどなぁ・・・」
紅茶を飲んで少しでも平常心を取り戻そうとする父さんと母さん。部屋を変えてくれなんて言えないし、父さんが言うように慣れるしかないだろう。
「お兄ちゃん、探索しよう。あの扉の向こうは何かな?」
「舞はマイペースだなぁ」
こういう時は動じない舞が頼もしく感じる。俺達も舞を見習うべきかな?




