第四百七十五話
父さん達に同情の念を抱いていた俺は関中佐の言葉に耳を疑う事になる。
「滝本中尉も迎賓館住まいですよ。入寮の準備、してないですよね?」
「えっ、中佐、士官学校は全寮制だった筈では?」
起床しての寝床の整備や着替えて集合するまでも訓練となっているので、全員が寮生活をしなければならないのだ。
因みに、前世の陸軍士官学校は第二次世界大戦前に市ヶ谷から神奈川県座間市に移転。その跡地に参謀本部が入るという経過を辿った。しかしこの世界では併設されている。
前世のように神奈川県に移転しているのであれば任務の度に移動する手間と時間を考慮して入寮しないというのも分かるのだが、情報部も入っている参謀本部に併設されている寮に入らない理由が分からない。
「滝本中尉は情報部の任務やダンジョン攻略で学校を欠席する事が多くなります。寮生活では外泊する任務なのか日帰りの任務が続いているのか分かってしまうので」
「外部に通じている者に情報を与える事になる、と」
陸軍内部も完全な一枚岩という訳ではない。他の省庁や公的機関、財閥などの民間組織が内部情報を得ようと息のかかった者を送り込んで来る。
どんなに関中佐や山寺中佐が頑張った所でそれを全て防ぐ事は不可能だし、落ち度が無いのに外部に縁があるからと排除する訳にもいかない。
「元々中尉の士官学校在籍は、将来佐官に昇進する為に必要な箔付けですから。中尉の実績を見れば予科の内容は教えるまでも無さそうですし、本科も実務を行ってますしね」
この世界の陸軍士官学校では、予科で一般的な軍務について学び、卒業試験に合格すると隊付けと呼ばれる実務を一年務める。勤務に問題がないと判断されると軍曹に任官され士官学校本科の生徒となる。
本科では適性に応じて振り分けられた分野別に専門知識を学び、卒業試験に合格すると少尉に任官されそれぞれの任務に就く事になるのだ。
俺の場合既に中尉に任官されているので、予科での学習と現場での実務に本科での学習全てを終えた状態を越えてしまっている。
「軍務に関する知識が無ければまた話は変わるのだが、滝本中尉は宮内省から護衛に関する意見を聞きたいと申請される程の知見があるからなあ・・・」
「それに関しては前世の記憶という反則技のせいですけどね」
前世におけるテロや暗殺の手法がこの世界でも使われる可能性は高いと思う。モンスターの脅威が低くなれば人は人と争うだろう。帝国に他国の間諜が入り込んでいる事実がそれを示している。
「という訳で滝本中尉も迎賓館住まいとなる。迎賓館の門を飛び越える許可も取っているので安心してほしい」
「中佐、マスコミに門前を封鎖でもされていない限り門を飛び越えるなんてしませんからね!」
中佐は俺が迎賓館から出る時は常に門を飛び越えると思っているのだろうか。そんな事は無くてからかってるだけだよね?
「滝本中尉は注目されているし、また取材攻勢で出られなくなるかもしれないので念の為な」
「赤坂から市ヶ谷はそんなに遠くないとはいえ、いつも走って逃げるなんて勘弁してほしいですよ」
事件も解決して報道も沈静化するだろうし、マスコミの皆さんには俺より三人娘を追いかけてほしいなぁ。




