第四百七十三話
質問を受け付けると言われた途端、全ての記者が質問を求めて手を挙げた。その中の一人が指され立ち上がる。
「滝本准尉は先日迎賓館でロシア皇帝陛下との会談をされた後、門を飛び越えて逃走されました。視聴者からは『何故男性に戻って跳んだのか』『そのまま跳んで欲しかった』との声が殺到しましたがそれに関してどうお思いでしょうか?」
最初の質問から予想外の物が飛んできた。その質問で本当に良いのかと記者に問い詰めたくなるがそれは出来ないので答える事にする。
「俺は女性になれるとはいえ、本来男性ですからね。必要が無ければ男性で居るのが当然です」
質問してきた記者は何か言いたいような素振りであったが、一人一問という条件なので引き下がって腰を下ろした。
「迎賓館の門を飛び越えるという行為は許される事ではありません。軍として処罰などはされるのでしょうか」
「門を飛び越えたのはマスコミが門前に陣取り車での退出を妨害したからです。また、門を飛び越える可否は門衛に確認したという事で、軍としては処罰する事は考えていません」
関中佐がそうせざるを得なかったのはお前らマスコミのせいだし許可は取ったぞと答えると、宮内省からの批難の矛先がマスコミに来ると思ったのか素直に引っ込んだ。
「今回の会談で皇帝陛下と軍で何らかの密約を交わされたのでしょうか?」
「今回の会談は、先日ダンジョン攻略の報告を行った後皇帝陛下にもお会いする予定だったのが、あの事件で流れたのでお会いしただけです」
「では、何故取材から逃げるような真似をされたのですか?」
「取材は広報課を通じて申し込むよう通達が行っていた筈です。予約の無い取材に応じないという事です」
昨日の皇帝面談と逃走劇についての質問が続き、予想内の物は打ち合わせた通りに答えそれ以外は臨機応変に答える。
「新たに齎された新素材ですが、民間への供給は予定されていますか?」
「今回は幸運にもレアドロップを得られましたが、次回も得られるとは限りません。三十二階層での滞在時間が限られる事を考慮すると、その予定は立てられないと言わざるを得ません」
関中佐が答えたように、本来ならば三十台の階層で何度も戦闘する事は難しい。なので二、三回の戦闘でレアドロップを得られるという超幸運に恵まれなければ持ち帰れないのだ。
実際はそんな常識を覆し、何日でも三十二階層に滞在出来るし充分な休息を取りつつスリープシープを何体でも倒す事が出来るのだが。
今なら迷い家で海水浴や取り立て海鮮バーベキュー食べ放題もあって、冬馬パーティーの三人も長期滞在を喜ぶまであるだろうしな。
もし関中佐からスリープシープの羊毛獲得合宿とか命令されたら、調味料を大量に持ち込んで嬉々として受けるだろう。
すぐに新学期が始まって士官学校に通う身としてはゴールデンウィークまで待って欲しい所だけど、軍の学校だし軍務を優先されるかな?
 




