第四百七十一話
「綺麗なんだけど・・・何かインパクトが足りない気がするわ」
「軍の募集ポスターに何を求めているのですか・・・」
こちらも好んでやっている訳ではない。文句があるならそれを理由に辞退してやろうかとつい思ってしまう。うん、そうしよう。
「そろそろ会見の準備もしないといけません。ご不満なようですし、撮影はここまでにさせてもらいましょう」
「えっ、そ、そんな!まだ撮りたいのに・・・」
「こちらも不満を言われながら撮られても困ります。再度撮影を受けるかどうかは広報課から情報部に許可を得てもらうと言う事で」
言いたい放題していたツケは払ってもらう。俺だって堪忍袋の緒が切れる。こちとら神や仏ではないのだ。神の使いだけど。
着せ替え人形で普通の軍服に戻り撮影用の部屋から出る。背後から叫び声が聞こえてきたが無視して歩く。
「ちょっ、滝本中尉、良いのですか?」
「最低限ポスターを作れる程度には撮ったのだから、後は広報課で何とかしてもらいましょう。俺は二度と広報課からの依頼は受けませんよ」
猛獣が大人しいからと調子に乗って撫で回せば、猛獣も怒って噛み付いてくる。なのに猛獣だろうと噛まないだろうと思い上がったのが悪い。
「お帰り、滝本中尉。撮影は無事に終わったの?」
「無事ではありませんが終わらせてきましたよ」
情報部の部室に帰り居合わせた部員さんに事の次第を説明した。部員さん達は複雑そうな顔をしたが俺を責めるような事は言わなかった。
部屋の隅で着せ替え人形の装備を戻していると広報課の課長がえらい剣幕で部室に入って来た。
「滝本中尉、課員から撮影途中で帰ったと報告があったがどういうつもりかね?」
俺は笑顔で事の次第を説明した。撮影枚数を無断で増やされた事と撮影中好き勝手言われた事をだ。課長は話の途中から顔を顰めだした。広報課の人達は自分達に都合が良いように報告していたのだろう。
「それは間違いないのだな?」
「はい。何なら山寺中佐をお呼びして真偽を明白にされても構いませんよ」
この世界、スキルで嘘が暴かれるので助かる。今回のように録音していなくても言った言わないで水掛け論にならずに済むのだから。
「・・・何とかもう一度撮影してもらう訳にはいかんかね?」
「お断りさせて頂きます。広報課の人達は俺が被写体では不満なようですし、他の人に依頼して下さい」
明確な拒絶に取りつく島もないと悟ったのか、課長は肩を落として情報部の部室から退室していった。既に撮影したデータの使用を禁止しなかったのだから、それで満足して下さい。
「やらかしたなぁ。だがこれで普段大人しい者を怒らせると恐いって思い知っただろうよ」
「中佐、恐くはないですよ。俺からは何もしませんからね。それより記者会見の打ち合わせをしてしまいましょう」
呆れた様子の関中佐を急かし打ち合わせを行う為に部長室に入る。背後では井上兵長と久川兵長が小声で何か呟いていたが内容までは聞き取れなかった。
「これは荒れるわね」
「広報課は滝本中尉のファンクラブの会員を敵に回したものね」
その日から何故か陸軍内での広報課の立場が頗る悪くなり、数日後広報課総出で謝罪に来るのだがそれは別の話。




