第四十七話
翌日、舞と登校しているがこちらを見てヒソヒソ話をする生徒が多い事に気付いた。普段も注目されている自覚はあるが、今日はいつもより多い気がする。
「お兄ちゃんが九階層まで行っているという話と、昨夜の放送が原因でしょ。顔が良くて実力あって性格も良いなんて人、そうそう居ないから当然よ!」
周囲に見せつけるように俺の腕を抱きしめる舞。その瞬間に女性からは羨望と嫉妬の、男性からは嫉妬と憎悪の視線が強くなった気がする。
舞は可愛い上に女性らしさも成長しつつあり、抱きつかれると柔らかい感触が理性を蝕む。欲望に負けないとは思うが理性を保つのに必要な精神力は日々増加の一途を辿っている。
「お兄さん、おはようございます。昨夜の放送見ました」
「おはようございます。ダンジョン探索って、大変なんですね」
そうこうしているうちに舞の友達二人も参戦してきた。俺は三人にあの後の顛末を話しながら歩く。
「お兄ちゃん美人だし、またトラブルに巻き込まれるかもしれないからお兄ちゃんも動画撮影する?」
「舞、お兄ちゃんに美人は間違えてないか?ほら、今日も車に気を付けてな」
舞達と別れ中学校に向かう。俺は妖体化があるから記録を残す訳にはいかない。そこだけ撮影を止めては逆に怪しまれる事になるので使えない。
もしも撮影がダンジョン探索の条件にされてしまったら厄介な事になるかもしれない。前世で読んだ小説ではそんな設定の物語もあった。この世界でそうならないとは限らない。
「まあ、悩んでいてもどうしようもないしそうなった時に考えるか」
俺は意識を切り替えた。中間テストも近い事だし、勉強に集中しなければならない。油断して赤点、なんて事になったら目も当てられない。
「・・・はい、今日の授業はここまでです。明日はダンジョンに潜るのかしら?」
「はい、武器が欲しいのでお金を稼ぐ必要がありますから」
今日は土曜日なので早くに授業は終わった。帰り仕度をしながら先生と雑談をする。どうやら昨夜の放送は見ていなかったらしく、その話題が出ないのは助かった。
さて帰ろうか、というタイミングでスマホが振動した。先生に断り確認すると2222ダンジョンのギルドからだった。
「はい、滝本です。・・・えっ、ええ、全て断るという事でTHKさんにもお伝え下さい」
通話を切ってスマホを仕舞う。舞の言葉が現実となった事に頭痛を覚えため息をついてしまった。
「深刻そうだけど、どうしたの?THKとか聞こえたけど」
「ダンジョン探索中に絡まれまして、それをTHKが取り上げたんです。それの絡みでした。それでは失礼します」
ミーハーの気配がする先生に多数の芸能事務所からスカウトの連絡が来ているなんて言いたくない。一応先生なのだから生徒の個人情報は守るだろうが、話を広められたらたまらない。
俺は強引に話を切って教室を出る。しかし、話はそれで終わらなかった。家に帰り着いたタイミングで再びスマホが鳴り、発信元が2222ダンジョンギルドだと示していた。
「度々申し訳ありません。THKから芸能事務所のみならず視聴者からも『あの娘は誰なんだ』という問い合わせが多いらしくて。明日THKの者がお会いしたいと」
「はあ、分かりました。何処に行けば良いですか?」
その後会う時間と場所を決めて通話を切った。こんな事になるなら動画の使用を断れば良かったと後悔したが後の祭りである。




