第四百六十九話
翌朝、着せ替え人形に第一種礼装を男女両方着せて通常の軍服を着て広報課を訪ねた。礼装のまま移動しなかったのは、第一種礼装だと目立つので避けたかったからだ。
因みにこの世界の帝国軍では儀礼用の軍服を礼装、通常の軍服を軍装と呼んでいる。第一種は冬服で第二種が夏服だ。
「お疲れ様です、滝本中尉。撮影する数が多いですがよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。男性体で一枚、女性体で一枚、冬馬パーティーと一緒に男性体と女性体で各一枚でしたね」
滝本医院取り潰し事件のせいで予想より話題になっていないとはいえ、ダンジョン到達記録タイを記録した冬馬パーティーの注目度は高い。三人が妙齢の美人さんという事で広報課も特別攻略部隊より宣伝に力を入れるつもりだそうだ。
「いえ、違います。男性の姿で女性用礼装を着て一枚。女性の姿で男性の礼装を着て一枚。それぞれ滝本中尉単体と冬馬パーティーと一緒にも撮影します」
「ちょっ、男が女性用礼装着たのとか女で男性用礼装着たのなんて需要あるんですか?」
まあ、女性体で男装するのは前世で宝塚歌劇団が人気だったし好きな人も居るのかなぁと思う。逆もマニアックな人は好きかもしれないけど、嫌悪感を感じる人も居るのでは?
写真を撮るだけならまだしも、ポスターにするならそれなりの費用がかかる。費用対効果を考えると追加分は作らない方が良いと思うのだが。
「ポスターの制作費にと結構な額の献納が寄せられています。刷ったポスターを回してくれるならと政財界から大口の献納もありまして。そこで希望されたのでうちとしましては・・・」
「リクエストするお偉いさんもお偉いさんだけど、それに応える広報課も大概だな!」
この世界の日本、思ったよりも特殊な趣味の人が多いのか?それとも話の種に道楽で作らせるだけか?
「因みに、総数で昨年の十倍刷りますが全て行き先は決まっています」
「・・・きっと父さんの件で注目されてるから物珍しさで欲しい人が居るだけだ。うん、そうに違いない」
心の平穏を保つ為自分に暗示をかけて撮影に臨む。撮影用に背景を誂えた部屋に入り着せ替え人形を発動して第一種礼装に着替える。
「それが滝本中尉のスキルですか。便利なスキルですね」
「便利ですよ。私生活でも戦闘でも使える汎用性が高いスキルですよ」
部屋の隅に設置された鏡台の前に座らされ、女性士官の人に軽くメイクを施される。と言っても薄くクリームのような物を塗られただけで終わったのだが。
撮影用の白い幕の前に立ちポーズや表情を変えて何枚か撮影した。使うのは一枚だが、複数枚撮って良い物を吟味して使うそうだ。
オッケーが出たので小休止する事に。俺は女性体を発動して第一種礼装を着た女性の姿に変わる。それを見ていた広報課の人達からため息が漏れた。
「男の娘の中尉も可愛いけど、女の子の中尉は輪を掛けて可愛いわね」
「元が男だとしてもいける・・・いや、男の方でもいける!」
不穏な発言も聞こえるけど、そろそろ撮影を開始しないと間に合わなくなるのではないかな?撮影する枚数も増えてるし、この後記者会見もあるから時間延長は出来ないのだけど。




