第四百六十八話
「とっ、飛び越えたぁ!」
「取材は陸軍広報課を通して許可をお取り下さい!」
まさか門を飛び越えて逃げると思っていなかったマスコミ達は、捨て台詞を吐いて走る俺の背中を呆然と眺めていた。
「はっ、追え、追うんだ!」
「一々許可なんて取ってられるか!」
記者達は走って追いかけて来る者と車やバイクで追いかけようと停めてある車両に走る者に分かれた。
「くっ、追いつけない!」
「ゴスロリから一瞬で革鎧になるなんて反則だろっ!」
追っ手の記者達が八つ当たり気味に叫ぶのが聞こえてきた。ヒラヒラしたスカートで如何にも動きにくそうな服装だったのが、一瞬でブーツに革鎧という動きやすい格好に変化したのだ。叫びたくもなるだろう。
「結構な差がついたな。まあ、当然と言えば当然か」
マスコミ連中は逃げる取材対象を走って追いかけるなんて想定していなかっただろう。靴は走りにくいビジネスシューズだろうし、カメラを構えている奴はすぐにバテるだろう。
青息吐息の記者達を追い越してバイクに乗った記者が迫ってきた。俺はわざと走る速度を落とし急激に距離を詰める。そして追いつかれる寸前に路地を左に曲がった。
「うわっ、あっちだ、戻れ!」
「無茶言うな、逆走しろってか!」
幸いな事にバイクを運転していた者には常識があったようだ。特ダネの為なら逆走も辞さないマスゴミだったら事故を誘発していたかもしれない。
細い路地を抜けて本営の真ん前に抜けた。赤坂の迎賓館から市ヶ谷の本営まで近かったから出来た芸当だ。
「申し訳ない、すぐにマスコミが追ってくると思いますが対処をお願いします」
「はっ、お任せ下さい!」
門を守る衛士さんにマスコミの対応を頼んで情報部の部室に入る。
「中尉、お帰りなさい。マスコミとの追いかけっこ、中継されてましたよ」
「ただ今戻りました。どこから情報が漏れたんですかねぇ」
迎えてくれた部員さんに答えて部長室の扉を叩く。入室許可が出たので入ると関中佐が待っていた。
「中尉、お疲れ様。災難だったな」
「ありがとうございます、中佐。まあ、良い運動になりましたよ」
部長室のテレビには本営前からの中継が映されている。諦められずにまだ張り付いているようだ。
「明日正式に記者会見すると通達されているのだから待てば良いのに・・・」
「彼らは情報収集が仕事だからな。他社より少しでも早く、多くの情報を得たいのだろう」
関中佐も情報を扱うプロフェッショナルだから、その辺に対して理解があるのだろうか。なんて考えている俺も情報部の部員なのだから、情報という物に対する考えを深めなくてはいけないな。
「明日は広報課で宣材の写真撮りの後記者会見ですね。服装は礼装で良いですか?」
「広報課からは礼装でと通達が来ている。男女両方を撮るそうだ」
男の姿だけで済ませたい所だけど、全国生中継で黒ゴス姿まで披露しているのだから今更か。状況に流されて慣れてしまっているのかもしれないなぁ。




