第四百六十七話
「概要は聞いたが、犯人達は本当に許せないな。私も力になれれば良かったのだが・・・」
「幸いにも天皇陛下と陸軍の皆様に尽力をいただき、ほぼ解決する事が出来ました。父さんもその言葉を聞けば喜ぶでしょう」
ニックとアーシャが滞在する迎賓館の一室。俺はロシア皇帝陛下の対面に座り歓談をしている。対話している内容だけ聞けば至極真面目な話なのだが・・・
「すまないが、もう少しそのままで居させてくれないか。前回会えなかったので落ち込んでいたのでね」
「私が忘れてしまったのが原因ですからね。アーシャの気が済むまでこのままでいますよ」
俺は女性の姿で黒ゴス着用しこの場に赴いている。前に二人に会いに来る約束を反故にしてしまった謝罪に来ているので、前回訪れる予定だった服装で来たのだ。
「アーシャは舞ちゃんと同じ学校に通える事を楽しみにしているよ。いずれ直接礼を言うつもりだが、私が感謝していると伝えて欲しい」
「わかりました。舞もアーシャと会うのを楽しみにしていますよ」
ニックに答えつつ隣に座り俺に抱きついているアーシャの頭を撫でる。皇女殿下の頭を撫でるなんて不敬な行為だが、本人の希望なので問題ない。
「もうすぐ私もスキルを授かります。優お兄さんや舞ちゃんの役に立てるスキルを貰いたいわ」
「そうなったら嬉しいけどね。どんなスキルだったとしてもアーシャはアーシャだ。私達の関係は変わらないよ」
大切なのはスキルの有用性ではなく人そのもの。どんなに有用なスキルを持っていようとも、保有者の人間性が悪ければ害悪にもなり得る。
面談の予定時間が終わり、別れ際にアーシャから強く抱きしめられて迎賓館を後にする。玄関を出ると門の外にマスコミが陣取っていた。
「ただ今滝本准尉が姿を現しました。我々が得た情報によりますと、ロシア皇帝陛下の希望で面談が行われたとの事です。しかしどのような内容が話されるのかは判明しておらず・・・」
「滝本准尉、皇帝陛下とはどのような会話をされたのでしょうか!」
「滝本准尉、一言、一言お願いします!」
迎えの車は玄関前に到着しているが、このままでは道を塞がれて門から出られない。迎賓館の衛士だけでは群がるマスコミを押さえ込む事は出来ないだろう。
「私が一人で逃げるから、マスコミが私を追って居なくなったら市ヶ谷に戻って下さい。送迎任務を完遂出来ないのは不可抗力ですから、戻ったら貴官に落ち度は無かったと上申します」
「了解しました。中尉殿、お気をつけて」
迎えの車の運転手に自力で脱出する事を告げ門へと歩く。マスコミは取材に応じると勘違いし中継する声に熱が入る。
「衛士さん、このままでは出られないので門を飛び越えたいのだけれど宜しいですか?」
「えっ、あっ、出られる予定だったので出る事に問題はないと思いますが・・・」
門を飛び越えて出る許可を得るという、恐らく前代未聞の質問に狼狽えながらも答えてくれた衛士さん。言質を取った俺は女性体を解除し革鎧を着た状態になって飛び上がり、門の頂点を蹴ってマスコミ達も飛び越えた。




