第四百六十五話
翌日には事件が解明されていき逮捕者が出るようになった。マスコミの報道合戦も過熱して報道番組でこの件を扱わない番組は無いと断言出来る程だ。
最初に偽りの閉院を理由に処方箋受付停止の通知を出す命令を下した厚生労働大臣が逮捕された。次に大臣を唆した教唆罪で秘書が逮捕された。
秘書への取り調べにより発案したのが日本医師会の理事だとわかり、医師会の理事数人が逮捕。秘書から名前が出なかった理事も全員が取り調べを受けた。
理事の全員が関与していた訳では無いと判明したものの、医師会は医師を守らず利権の為に利用するだけだと世間に広まった事で脱退する医師が急増。医師会は大幅に衰退した。
厚生労働省では確信犯は大臣と秘書の二人だけだったが、確認作業など行うべき仕事をせずに惰性で通達を行ったとして多くの職員が停職や減給などの処分を受けた。
滝本医院を潰せば専属にさせられるかも、と誘われてマスコミなどへの工作に手を貸した政治家や貴族も摘発され、それを受けて偏向報道を行った報道機関も捜査を受けている。
しかし官僚や政治家の逮捕は大きく報じても報道関係者の逮捕はほぼ報じられない。他者に厳しく身内に甘いのは世界が違っても変わらないらしい。
「広報課から事件が落ち着いたら滝本医師の軍医就任と優君の士官学校入学を正式に発表して会見をやりたいと要請が来ています」
「発表は構わぬが、会見は必要かのぅ」
「世間の注目を集めましたからね。やらないとマスコミから突き上げられます」
マスコミの相手なんてやりたくないが、今回の件で利用させて貰ったし軍の希望でもあるからやらないという訳にはいかないな。
「あれ、中佐は参加せぬのか?」
「もう中年ですから。体力で若い者に勝てるとは思いませんよ」
デッキチェアに座った俺と関中佐の視線の先では、冬馬パーティーの三人と情報部の部員さんがビーチバレーを楽しんでいる。
「あいつら、一応調査という理由でここに居る事を忘れてますね」
「まあ、仕事に支障がないなら妾は構わぬのじゃがな」
俺が彼等のためにやっている事と言えば、彼等が自由に出入り出来るように情報部部長室で迷い家の入り口を開いたままにしているだけだ。明日の卒業式までやる事も無いので動けなくても何の支障もない。
「士官学校の入学式前に任官を済ませたいとの連絡が人事部から入りました。それに伴い人員募集ポスターの撮影もやりたいそうです」
「撮影は辞退したい所じゃが、陸軍には世話をかけるからのぅ。どちらも了解じゃ」
本来ならば予科を卒業し本科に進んだ段階で任官されるのだが、俺の場合既に軍属として准尉の位を受けている。その為特例として予科に入学する時点で正式な軍人となる事が決定していた。
「それと、宮内省からロシア皇家との面談をして欲しいとの打診が・・・」
「あっ、忘れてた!」
陛下への公式報告と記者会見の後アーシャとニックにも会う予定だったのだが、陛下の勅命騒ぎがあったのですっかり忘れていた。これは二人からのお説教を覚悟しないとな。
 




