第四百六十二話
父さんと母さんが舞を学園に送って不在になった間も部員さん達は数人が残って調査を続けている。
「この紙はスズキの奉書焼きに使うのか?」
「いや、それは紙塩に使う。スズキは松皮造りにする」
料理の為の器具やら調味料がかなり運び込まれている上、普通ではお目にかかれないような調理方法まで駆使して魚や貝が料理されているが行われているのは調査なのだ。
「で、陛下の勅命を受けて厚生労働省と医師会の調査をしてるはずの陸軍情報部部長様は何をやっているんだ?」
「見て分からないか?鯛しゃぶを堪能している。釣れたての鯛は格別だぞ」
呆れた様子の山寺中佐に箸を止めて答える関中佐。これはダンジョン探索中でも是非食べたい美味しさだ。
「玉藻様、鯛しゃぶのお供なら私が務めます。こいつは馬車馬のように働かせないといけません」
「ちゃんと仕事はしているぞ。調査の方は異常な程情報が集まっていてな、これ以上現場に人を出す必要が無いんだよ」
厚生労働省も日本医師会も、調査に訪れた陸軍軍人に積極的に協力しているそうだ。聞いていない事まで率先して話しているらしく、父さんの件以外でも不穏な情報が集まっているのだとか。
「陛下が公式の場で全国生中継の中調査を下命されたからな。非協力的な態度をすれば共犯者と疑われるか・・・潔白でも白い目で見られるだろう」
「そういう事。だから次に重要な調査の陣頭指揮を執っているという訳だ。おっ、玉藻様、この青竹焼きもいけますよ」
関中佐の勧めに従いスズキの青竹焼きに箸を伸ばす。紙塩をきかせたお刺身も美味しかったが、こちらもまた美味しい。
「全く、世間では滝本医師の件で大騒ぎしているのに・・・当事者がこれか」
「元々はマスコミの前で暴露して、隠蔽出来ないよう嫌がらせする程度の思惑じゃったからのう」
上位貴族や政治家などの上流階級の人達は挙って「自分は関与していない」と声明を出しているそうだ。疑われるだけでも大ダメージになると必死になっているそうだ。
「今出てきている証拠や証言では、命令したのは厚生労働大臣かその近くだな。正式な書面で命じられているから、偽造したとしても上の方の者しか出来ないだろう。医師会は山寺に判別して貰う必要があるな」
「厚生労働省は命令として公布されてるから書面があるが、医師会は直接関わっていないから証拠が無いのか。だが、守るべき医師を守らなかった以上利を得る約束が成されていたと考えるのが妥当だ」
会話しながらも網の上の牡蠣に醤油を垂らして一気に食べる山寺中佐。殻に残った汁も残さず飲んでいる。
「厚生労働省と医師会に注目が集まっている内に滝本家の護衛体制を整える。その時間を稼げたのもありがたかったな」
「計算して言った訳では無かったのじゃが、良い方に転んでおるのぅ」
これも日頃の行いか、宇迦之御魂神様の加護のおかげか。取り敢えず、この状況を最大限に利用させてもらいましょう。
 




