第四百五十三話
そこからは羊毛はどのような特性があるのかや、羊毛は払い下げられるのかといった羊毛に関する質問が続いた。
特性はこれから調べなければならないし、民間企業に払い下げられるかは俺達が答えられる内容ではない。なのでそう答えたのだが同じような質問が繰り返された。
そしてダンジョンやスリープシープに関する質問があらかた出たと思われた頃、先程の俺の発言に対する質問が行われた。
「滝本准尉は陸軍士官学校に入学が決定していると聞いています。それを今更反故にするのは国に対する裏切りではありませんか?」
「父親がいきなり職を奪われ、経済的に苦しくなるのにですか?母親も医院で事務を行っていたので同時に収入が途絶えます。妹はまだ中学生なので、家族を養えるのは私だけなのです。まさか収入が無い状態で学生を続けろとか言いませんよね?」
会社の倒産やいきなりの解雇で学生を続けられなくなるなんて、多くはないかもしれないが珍しいという程のものでも無いだろう。俺は偶々士官学校だったというだけの話だ。
「医師ならば勤める先はいくらでもあるでしょう。進学を取り消さなくても良いのでは?」
「我が家の収入を断つために厚生労働省を動かす相手ですよ。どこも難を恐れて採用なんてしないでしょう」
「我々陸軍ならば厚生労働省の手は及ばない。だから滝本医師には軍医にならないかと打診してはいるが、それもうちの人事が了承したらの話だからな」
関中佐が一応解決策を用意している事を話すが、それとて人事の判断待ちという事も説明した。マスコミはそれに対して噛み付いてきた。
「それは父親を軍医として採用しなければ士官学校に入らないぞ、という脅しですか?自身の実績を盾に父親に便宜を図れと?」
「脅し?事実を述べているだけだがな。父親の職が無いなら進学せずに労働するしかないというだけの話だ」
「諸君も聞いていたと思うが、陛下もこの件に関してはご不快に思われている。捜査に関して陛下の名を使う事をお許しになる程だからな。純粋な被害者である滝本家を責めるような言動をとるならば加害者に与する者と判断する事になるが宜しいか?」
質問をした記者は関中佐と鈴置中将のキツイ反論にたじろいで他の記者の陰に隠れてしまった。生中継されている上に動画データも残るだろうから、今更隠れても何処の社の誰かなんて調べがつくのにな。
中将の念押しに怯んだのか、質問が途切れた為会見はお開きとなった。三人娘は今後の打ち合わせの為に市ヶ谷に戻るが、俺と関中佐と鈴置中将は再度陛下と話し合いとなる。
「マスコミにも加担してる奴らが居そうですな」
「中佐、陛下のお許しがあるのだ。徹底的に調べて潰してしまおう」
中佐と中将のヤル気が高いが諌める気にはならない。俺も父さんを嵌められて怒っているのだ。むしろどんどんやって欲しい。
陛下との話は父さんの件に関して調べられた内容を説明し、陛下から容赦せず調べるようにとの念押しをされて終了した。




