第四百四十八話
「実は、もう一つ提案があって来たのです。舞ちゃん、先程ベルウッド学園から転校しても構わないと言っていましたね?」
「うん、お兄ちゃんが卒業するから」
「では、帝国大学附属学院中等部に転校しませんか?」
中佐の口から予想もしなかった提案が飛び出てきた。ベルウッド学園は上流階級の子女や優秀な者が通う学園だが、帝国大学附属学院とは格が違う。
帝国大学は前世で言う東大のような感じだが、附属学院は皇族や貴族家の子弟ばかりが通う学院だ。成績優秀であろうとも平民が入れるような学院ではない。
「実は、アナスタシア殿下が四月から帝国大学附属学院に通う事となったのです。その学友という立場で転校してもらいたいと思っています。殿下も気の休まる話し相手が必要でしょう」
アーシャも周囲が皇族や貴族の子弟ばかりでは皇族としての対応をする事になるだろう。学友が出来たとしても家格を考慮しての付き合いになる可能性が高い。
舞なら皇女としてではなく一人の少女として接する事が出来る。アーシャの精神面での安定を考えるなら悪い手ではない。
「中佐、皇女と学友になって距離を詰めようとする者が多く居るでしょう。皇女の隣に平民が居ては迫害をされる恐れがあるのでは?」
「優君の懸念は尤もです。しかし、父親が高位貴族家から専属にと請われる優秀な医師で兄が到達階層世界記録タイを打ち立てたパーティーの一員です。下手な手出しは出来ないでしょう。それに、もし舞ちゃんに何かあれば陸軍情報部が黙ってませんよ」
舞に危害が及ばないのであれば、俺は反対するつもりはない。アーシャの事を考えると賛成したいとも思う。だが、一番に尊重するべきは舞の意思だ。
「舞、関中佐の提案を受けてアーシャちゃんと帝国大学附属学院に通うか?」
「舞はどこの学校でも構わない。だけど、アーシャと一緒に学べるなら嬉しいな」
「舞ちゃんも異存は無いようですね。では転校手続きと根回しは我々の方でやっておきます」
予想外の展開で舞が転校する事となってしまった。ダンジョン攻略の件で俺も少し注目されるだろうし、安全面を考えたら良い結果なのかもしれない。
当面の問題が解決したのは良いが、父さんをこんな状況にした連中に仕返しをしてやりたい。幸い明日絶好の機会があるのだし、少し位やり返してもバチは当たらないよな。
「関中佐、明日の謁見と会見ですけど・・・」
俺はさっき思いついたささやかな仕返しを中佐に提案する。話を聞いた中佐は途中から呆れた様子だったが、最後にはイイ笑顔で賛成してくれた。
「それはかなり効果的でしょう。衣装もアレですし、さぞかし面白い事になるでしょうね」
「衣装?前回の謁見みたいに軍服を着ないの?」
中佐の呟きに母さんが食いついた。そう言えば宝箱から出た衣装の事を言っていなかったな。海の事もついでに話しておこうか。
 




