第四百四十一話
三人は羊を取り囲み代わる代わる攻撃を叩き込んでいく。羊毛を失ったスリープシープは何処を攻撃してもダメージを与えられるが、三十二階層に配置されているだけあって中々倒れない。
三人の武器が魔鉄製でこの辺りの階層では物足りないという事と、長時間側に居ると状態異常を食らう為連続して攻撃出来ないという事が戦闘を長引かせた。
しかしスリープシープは三人に攻撃を当てる程の素早さはなく、余裕でとはいかないものの羊の攻撃は全て躱されていた。この状態を維持出来れば三人の勝ちは揺るがないだろう。
そしてその時はやって来た。久川上等兵の戦鎚が羊の左後ろ足付近の胴体にヒットすると、羊の巨体が光に包まれた。
その光が止み大きな魔石が転がっていると思いきや、そこには真っ白な羊毛が山と積まれていたのだった。
「これって、レアドロップよね」
「魔石じゃないのだから、レアドロップとしか考えられないわよ」
「初討伐に初レアドロップ?良いのかしら・・・」
当然ながらスリープシープのレアドロップを出現させたのは彼女達が世界初である。予想だにしていなかった快挙に、彼女達は半信半疑になっていた。
「何を戸惑っておる。正真正銘、お主らが実力で手に入れた戦利品じゃ。手分けして迷い家に運ぶぞえ」
半ば放心した三人を急かし羊毛を迷い家に運び込む。今日はこのまま終わりにするのが良さそうだ。
三人とも心ここに非ずといった状態だが、レーションで食事をとり風呂にも入って就寝した。この状態でもしっかりと尻尾をブラッシングしたのは見上げたモフラー魂と称賛するべきだろうか。
「玉藻様、昨日の事は夢ではないですよね?」
「当たり前じゃ、軒先にはちゃんと羊毛が積んであるわ。確認するがよい」
朝食(焼き鮭と茄子のおひたしに胡瓜の漬物とアサリの味噌汁)を食べた三人は自分達が得たレアドロップを見て漸く実感が湧いたのか大声で叫び喜んだ。
「実績としては充分過ぎる戦果じゃろう。長居してもうた事じゃし、今日は妾が空歩で走って戻ろうかと思うが良いか?」
「戻る予定も設定していませんでしたし、地上では心配しているかもしれません。それが良いと思います」
三人に異論はないと言うので、帰りは俺が空歩で走り抜ける事となった。今回はいつものダンジョン攻略と違って、潜る際に天皇陛下がお見送りにいらしてくれていた。
すっかり失念していたが、俺達が戻らない事を陛下が気に病んでいるかもしれない。自意識過剰かもしれないが、陛下ならそれもあり得ると思う。
昼食時にそれを三人に言うと、彼女達もそれを忘れていたようで最速で帰ると満場一致で決定した。間引きは大きな魔石を持ち帰るので帰りはスルーしても問題ないだろう。
そして帰還を始めて三日目の昼前には一階層まで戻る事ができ、三人を迷い家から出して玉藻から優に戻った。
表向き冬馬パーティーのバックアップは玉藻ではなく滝本優が行っている事になっているからだ。ダンジョンの出口に誰が居るか分からないので、それに対して配慮したのだった。




