第四十四話
昼食の時間になったのでフランチャイズの豚丼屋で豚丼大盛りを食べる。前世では牛丼だったチェーン店が豚丼メインになっている。
これはアメリカがダンジョン出現時に起きた全世界氾濫により壊滅寸前まで陥り、牛肉を日本に輸出する余裕が無かった為だ。代わりにダンジョン一階層で拾える豚肉を使った豚丼が庶民の味となったという経緯がある。
腹が膨れた所でこの後を考える。まだ時間は早いが、ダンジョンに潜るには時間が足りない。かと言って他にやる事も思い浮かばないのでギルドに向かう。
「鋼・・・いや、魔鉄でもギリギリか。でも、それ以上の武器には手が届かないか」
足りない攻撃力を補う為の武器。それをギルドの売店に見に来たのだが、やはり武器は高価だ。今の持ち金で買えるのは鉄の片手剣くらいしかない。
現在ダンジョン攻略に使われる武器や防具に使われる金属は鉄・鋼・魔鉄・ミスリル・オリハルコン・アダマンタイトの六種類だ。
鉄と鋼の説明は不要だろう。魔鉄は魔力を帯びた鉄で、鋼よりも強靭な上それよりも軽い。しかしダンジョンの宝箱からしか入手出来ない。
ミスリルは魔鉄よりも帯びる魔力が強く、強度も少し高く重さもほぼ同じ。アダマンタイトは傷つける事すら出来ていない程強いが重さも半端ない。
オリハルコンはミスリルよりも軽く、硬く、纏う魔力も多いが硬さでアダマンタイトに負ける上に得られた数がかなり少ない希少品だ。
まだまだ俺の力は強くなる事を考えると、魔鉄やミスリルでは心許ない。着せ替え人形の効果で修復出来るとはいえ、数度戦闘で使ったら修復の為使用不能となるのでは着せ替え人形の長所が活かせない。
しかし、魔鉄以上の武具は宝箱から運良く手に入れるしかなく、市場に出回りにくい。実際、この店に並んでいる魔鉄武器は三節棍のみ。ミスリル以上の武器は扱っていないようだ。
こんな不人気ダンジョンのギルドに希少武器の割り当ては無く、人気のある大手のギルドに行かないと見ることも出来ないと店員さんが語ってくれた。
程良い時間になったので家に帰る。夕食が終わると舞が朝の話を切り出した。
「お父さん、お母さん。お兄ちゃんがもう九階層まで降りてるって聞いてた?」
「何、もう九階層まで降りてたのか?」
「ええっ、優ちゃん無理してない?危ないわよ!」
父さんと母さんが心配そうに俺を見る。俺は安心させる為に笑みを浮かべながら話す。
「大丈夫だよ。父さんと母さんが思うより、俺の能力は強いから。筋肉の密度が高いから、力だけでなく防御も高くなってるんだよ。無理せず検証しながら降りてるから安心して」
その後、戦いの様子を微に入り細を穿ち説明させられた。筋肉密度が高いと知識として知っていても、それが具体的にどれだけの効果があるのか知って三人とも驚いていた。
「そこまで凄いとはなぁ」
「優ちゃんは神様からダンジョンを攻略するように願われてるのかしらねぇ」
母さんは冗談で言ったのだろうけど、それが正鵠を射ているとは夢にも思わないだろうね。




