第四百三十七話
冬馬伍長の制止により久川上等兵は攻撃せずに間合いを開けた。その隙にストーンワームはまた地中に戻ってしまった。
「伍長、何故止めたのです!」
「久川の戦鎚ならば奴に大きな傷を負わせる事が出来ただろう。だがな、それは至近距離で吹き出る大量の体液を浴びる事になるのだぞ」
戦鎚の攻撃は破壊力も大きいが攻撃後に生まれる隙も大きい。ストーンワームのように表皮が柔らかい相手ならば頭の部分は胴体にめり込み、抜くのに手間がかかってしまう事が予想される。すると攻撃後にすぐ退避する事が出来ず、傷口から噴き出した体液をもろに被る事となるだろう。
「身体に付いた臭いは入浴で消せるかもしれないが、衣服に付いた体液は洗濯で消えるか?消えなければ臭いまま地上に戻る事になるぞ」
「伍長、ありがとうございます!」
久川上等兵は冬馬伍長にお礼を言いつつ綺麗な敬礼を披露した。そしてストーンワームから間合いを取って待機する。
迷い家に寝間着用として浴衣はあるので着替える事は可能だが、それを着て戦闘するという訳にはいかないだろう。
浴衣で戦えない事も無いだろうけど、激しく動けば帯が緩んで露出してはいけない膨らみがポロリしてしまう恐れがある。
三人は同性だから気にしないかもしれないが、俺は見た目は狐巫女でも中身が男性なのだ。前世の記憶があるので老成しているし理性が飛ぶなんて事は無いと思うけど、見てしまうのは色々と問題があるだろう。
と言う訳で久川上等兵は気配察知でストーンワームの出現位置を知らせるに留まってもらい、俺と冬馬伍長と井上上等兵で攻撃を加えていく。
この手の相手は焼くと悪臭を放つと相場が決まっている。体液だけでも辟易しているので神炎さんには次の機会に活躍してもらう事にした。
戦っているうちに切るよりも刺す方が痛手になる事が分かってきた。なので冬馬伍長も突きを使うようになり、傷から漏れる体液は増えていく。
地中からのストーンワームを躱して攻撃し、戻ったワームを警戒する。そんなルーチンを繰り返していたのだが動きがあった。
伸びたワームが井上上等兵の方を向き、口に魔法の光が輝く。石弾を避けるべく身構えた井上上等兵だったが、生み出されたのは大きな石塊だった。
「皆、妾の後ろへ!」
攻撃の為空歩で空中に居た俺は急いで地上に戻り三人を庇う位置に陣取る。そして地面に刺さった石塊に向けて迷い家の入り口を開いた。
次の瞬間、石塊は大きな音をたてて破裂し石礫が無数に辺りを飛び交う。俺達に当たるコースの石礫は迷い家により阻まれたが、高速で飛ぶ礫に当たれば負傷は免れなかっただろう。
「ありがとうございます、玉藻様」
「間一髪じゃったな。ラストスパートじゃ、このまま完封するぞい!」
破裂した石塊の礫はストーンワーム自身にも突き刺さっている。自身も巻き込む範囲攻撃だが、奴がこれを出すのは追い詰められている証拠なのだ。
石弾や石塊を避けながら攻撃する事約三十分。ストーンワームは大きな魔石へと変貌した。
作者「臭いの成分を神炎で燃やせばよくね?」
三人娘「「「あっ!」」」
 




