第四百三十一話 とある皇居にて
少々時は遡り、冬馬パーティーが朱カブトと戦闘を行っていた頃。皇居のとある一室にて執務が一段落ついた天皇陛下が休息をとっていた。
「時に侍従長、玉藻様はまだダンジョンからお戻りになっていないのか?こちらには戻ったという報告は上がっていないが」
「私も受け取っておりませぬ。帰還の報があり次第知らせるよう手配してありますので、まだお戻りではないのかと」
陛下は特別攻略部隊ならばとうに帰還している日数を超えても戻ったという報告がない冬馬パーティーを気にかけていた。
「まさかの事態とは考えたくないが、日程は予定通りなのか?」
「・・・そう言えば、今回は陸軍から攻略の日程を知らされておりませんな。問い合わせます故暫しお待ちを」
「いや、情報が漏れては困る。出来れば関中佐から直接聞きたい」
日程を聞くだけならば万が一盗聴されても問題は少ないが、この機に冬馬パーティーの攻略が普段から長期間なのか等の質問をしたいと陛下は考えた。
そして翌日、鈴置中将と関中佐は宮中に参内した。陸軍軍人にとって陛下のお召し以上の優先度を持つ仕事は存在しない。
「では、玉藻様はまだダンジョンからお戻りになっていないのだな?」
「はっ、本職にもお戻りになったという報告は上がっておりません」
緊張しながらも陛下にお答えする関中佐。表面上は平静を保っているが、内心では失言をしないかとヒヤヒヤしていた。
「今回の攻略、日程が上がっていないと侍従長より聞いた。何か特別な理由があるのですか?」
「玉藻様の攻略では帰還の判断を玉藻様に委ねております。故に大まかな帰還日は設定致しますが、いつ戻るかは決めておりません」
通常日程は軍が決めて攻略部隊はそれに従い行動する。不測の事態に備えて予備日は設定されるものの、大きくズレる事はない。にも拘らず日程を設定していないという関中佐の答えに陛下は怪訝そうな顔をした。
「これは攻略に迷い家を使う玉藻様故の特例で御座います。普通の攻略では持ち込む飲料水や食料が限られる為、潜れる期間が限定されるのです」
「成る程、食料や飲料水を自給出来る玉藻様のスキル故の特性か」
鈴置中将の補足説明に納得される陛下。その気になれば一ヶ月でも一年でもダンジョンに潜っていられる、規格外なんて言葉では足りないぶっ壊れスキルである。
「最悪、パーティーメンバーを迷い家に入れ玉藻様はモンスターを無視して空歩で駆け抜けるという裏技も使えます。玉藻様に限って心配は不要かと思われます」
「そうだな・・・玉藻様を信じて待つのみか」
実は、迷い家にはデンシカの角を使った中継機が持ち込まれている為電話でもメールでも簡単に問い合わせる事が可能だったりする。しかし冬馬パーティーも玉藻も関中佐もそれが頭から抜けていた。
特別攻略部隊も中継機を持ち込んでいたが、設置するのは九階層のベースキャンプでありその先に設営するキャンプのメンバーや攻略する本隊とは連絡が付かないのが当たり前なのだ。
こうして、地上で心配しながら帰還を待つ人々を余所に玉藻と冬馬パーティーは攻略を進めるのであった。




