第四百二十六話
「思ったよりも時間がかかったのぅ」
「外骨格の上から当てたからですかね」
久川上等兵が言うように、外骨格の外から焼いたから焼けるまで時間がかかったのかもしれない。今度は前翅の下とか生身の場所に当ててみよう。
「玉藻様、今回は神炎が鉄カブトの視界を塞ぎましたが大きな布を使えば他のパーティーでも同じような倒し方が出来るのではないですか」
「フィールド次第じゃが可能ではあろうな。じゃが、それを採用するパーティーはあるまいて」
固くて生命力旺盛な上攻撃力もある鉄カブト。それを楽に倒せるというのに使えないと言った俺に三人は首を傾げた。
「それをやるには、この階層まで大きな布を持ち込む必要があるのじゃぞ」
「「「あっ!」」」
迷い家にすっかり慣れた三人は忘れているようだが、そもそも持ち込む荷物に制限があるというのがダンジョン攻略の難易度を跳ね上げているのだ。この階層まで大きな布を運び込むというのは現実的ではない。
「しかも、やったとしても布には角で大穴が開くじゃろう。穴の位置をずらして使ったとして何回使えるじゃろうな」
「そうですね。私達、迷い家に慣れてしまって持ち込み品の運搬という制約を忘れてしまってました」
以前は荷運びも担当していた久川上等兵が悄気返る。迷い家で持ち込み放題な上運搬の労力要らずという破格の攻略をやってきたからなぁ。
しかし戦略としては面白いので検証してみた。鉄カブトを曲がり角まで誘導し、触角だけ燃える神炎でダメージは極小だけど視界を塞ぐ炎を食らわせる。
壁に突き刺さった鉄カブトの前翅を切り落とし、まずは三人の攻撃だけで倒してみた。かなりの回数刺したり叩いたりする必要はあったが、危なげなく倒す事には成功した。
次の鉄カブトも同じように壁に激突させ、今度は前翅を切り落とし剥き出しになった身体に神炎を投げつける。
生身の背中を焼かれた鉄カブトは一分程で魔石へと変化した。初めに神炎を当てた時に時間が掛かったのは、防御力が高い外骨格のせいだと証明された。
「さて、検証も済んだ事じゃし後は神炎で焼きながら進もうかのぅ」
各自戦闘経験も積んだし検証したい内容の確認も終わった。なのでその後に遭遇した鉄カブトは神炎で壁に突っ込ませ、冬馬伍長が前翅を切り落とし顕となった生身に神炎を放り込んで倒した。これが一番早く倒せるのだ。
二十九階層への渦に到着したが時間が夕刻になっていたので今日の攻略はここまでとした。迷い家に入り夕食をとる。
「ダンジョンの中で炊きたてのあさりご飯を食べられるなんて贅沢な話よねぇ」
「もうレーションとカロリーバーだけの攻略には戻れませんね」
「私、一生玉藻様について行きます!」
ここに住むと言い出しかねない三人だが、気持ちはわかる。今は一部の貝類とウニしか獲ってきていないが、素潜りや釣りの道具を調達すれば他の海産物が得られる可能性は頗る高いのだ。
これで伊勢海老や鮑、サザエや鯛等が捕れたら居着いてしまいそうだなぁ。




