第四百二十五話
「あれは危なくて近付けませんね」
「角もまだ一本残ってますし、槍も回収出来れば良かったのですが・・・」
「あれは手放さなければ危険だったわよ」
俺達は痛みで暴れ狂う鉄カブトから距離を取り眺める事しか出来なかった。無秩序に暴れる鉄カブトに近付こうものなら、残った角や刺さったままの槍が当たり怪我をしてしまうだろう。
井上上等兵が刺したままにした槍は壁にぶつかり押された為、柄は半分程の長さが埋まっている。それにより更にダメージが加わった筈だが、奴はまだ生きている。
「とどめを刺したと思い迂闊に近付くと痛い目に遭いそうじゃな」
「生命力高すぎですよ。ナーフしてもらえませんかね?」
久川上等兵の愚痴に同意したくなるが、元の世界にあった時ならまだしも今となっては難易度調整を行う事は出来ないだろう。
結局、暴れ出してから十分以上の時間が経って鉄カブトは光と共に魔石へと変化した。大きな魔石と井上上等兵の槍が音をたてて地面に落ちる。
「倒せない事はありませんが、時間と手間がかかりそうですね」
「更に潜ったら、帰りにもこれの相手をする必要があるんですよね。玉藻様抜きでやるなんて想像もしたくないわ」
二人の上等兵がげんなりした表情で対鉄カブト戦の感想を述べた。冬馬伍長は何も言わなかったが、渋い顔をしているのを見るに二人と同意見だろう。
「次の鉄カブトは神炎がどれ程効くか試したいのじゃが」
「お願いします。もう、全ての鉄カブトを燃やし尽くして下さい」
冬馬伍長の許しを得たので、次の鉄カブトは神炎の餌食になってもらおう。虫系のモンスターは火に弱いというのが前世のRPGではお約束だったが、それが通用するだろうか。
警戒しながら次の階層への渦に向かう。マップに従い右カーブを抜けると百メートル程離れた場所に鉄カブトが這っていた。
こちらに気付いた鉄カブトは翅を広げ飛行を開始する。こちらもすぐに狐火を展開し鉄カブト目掛けて投射した。
「当たった・・・けど飛んでくる!」
「早くこっちへ!」
俺が放った三発の狐火は全弾鉄カブトに命中したが、鉄カブトは炎に包まれながらも俺を目掛けて飛行を続けていた。一瞬動きが止まった俺と驚いて棒立ちになった井上上等兵は冬馬伍長と久川上等兵に腕を引かれ曲がったばかりのカーブの影に誘導された。
「見事に激突しましたね」
「突撃豚を思い出すのぅ」
炎に視界を遮られたためか、鉄カブトはカーブを曲がれずダンジョンの壁に激突。鋭い角が見事に刺さり抜け出せなくなってしまった。手足をジタバタと動かして何とかしようとしているのだろうけど、一向に刺さった角が抜ける気配は無い。
「あれ、どうします?」
「じきに神炎で焼き尽くされるじゃろう」
そのまま藻掻く鉄カブトを観察していると五分と経たずに魔石へと変化した。
 




