第四百二十四話
まずは固さの確認という事で冬馬伍長が斬りかかる。鉄カブトは角で剣を払い、返す角で冬馬伍長を薙ごうと間合いを詰めてきた。
しかし横から井上上等兵が突きを入れる。複眼を狙った突きは鉄カブトに察知され、僅かに躱され頭部の少し後ろに命中した。
しかし槍は穂先すら刺さらず跳ね返されてしまった。その隙に冬馬伍長が角に剣を振り下ろしたがこちらも傷すら付けられずに終わってしまう。
「やはり固いですね。魔鉄の武器では文字通り刃が立ちません」
「定石通り関節か前翅の下を狙うしか無さそうです」
冬馬伍長と井上上等兵が悔しそうに唸る。久川上等兵は横か後ろへと回り込む隙を窺っている。彼女は正面から攻撃しよう物なら角に貫かれる可能性が高い。重い戦鎚を持つ久川上等兵は二人程素早く動けないのだ。
「妾の扇はどうかのぅ」
間合いが短い鉄扇で斬りかかるのは勇気が必要だが、神炎で焼いてしまっては彼女らが戦う機会が失われる。どこまで効くか試そうとは思うが、それは次の機会にする。
正面きって近づく俺に角を突き出す鉄カブト。それを右のステップで躱し、二本並んだ角の手前の物に扇の縁を当てる。
「・・・そうですよね。玉藻様ですからね」
「スキルがあれですから、扇も普通じゃないですよね」
「玉藻様、鉄カブトも茫然自失してますよ」
切れました。何の抵抗もなくあっさりと扇は角を通過していき、綺麗な断面を残して切断されました。それを見た三人も鉄カブトも、起こった事象を受け入れられなくて動きが止まってしまった。
「ま、まあ、この扇も宇迦之御魂神様謹製じゃからのぅ。神器のような物故、常識が当て嵌まらぬのかもしれぬ」
「確かに草薙の剣と同格と思えばこれくらい普通と思えますけど、三種の神器と同格の武器を持ち歩いている玉藻様って・・・」
国宝持ち歩いて実戦に使ってるのと同じなんだよなぁ。今更ながら玉藻ってぶっ飛びすぎてる存在だよ。
「取り敢えず、動いてない今のうちに一撃入れてみますね」
「久川上等兵、抜け目がないのぅ」
久川上等兵は、自慢の角を容易く切り落とされ自我を失う程落ち込んでいる鉄カブトの背後にいつの間にか回り込んでいた。
「そぉれっと!」
掛け声と共に振り下ろされた戦鎚は前翅に守られた背中に直撃した。その衝撃で鉄カブトの巨体が沈んだように見えたが、正気を取り戻した鉄カブトは攻撃を加えた久川上等兵の方に向きを変えた。
「混乱する気持ちは分かるが、こっちが隙だらけだぞ!」
鉄カブトが向きを変えた事により背後を取った形になった冬馬伍長が前翅の付け根に剣を振り下ろす。両手で渾身の力を込めた斬撃は装甲の隙間に命中し前翅の片方を切り落とした。
前翅を落とした剣の勢いは止まらず、柔らかい鉄カブトの身体に深い傷を負わす。そこに久川上等兵が槍を突き入れ、柄の三割が入る程深く突き刺さった。
鉄カブトは痛みで暴れ出し、井上上等兵は槍から手を離して後ろに跳んだ。冬馬伍長も避難して様子を見る。結構な傷を負った筈だが、昆虫は生命力が強い。もう少し戦いは続きそうだ。
作者「さっき知らん番号から着信あって興味本位で出たら、自動音声で『入国に関する書類で未提出の物が』なんて流れたから切った(笑)」
優「作者、埼玉県民だったよな?」
埼玉県民は日本国に対して入国手続きする必要があったようです(笑)




