第四十二話
陸軍軍人との予期せぬ邂逅を遂げた日の夜、学校から連絡があったと父さんから告げられた。支援級に編入するので、明日から登校してほしいとの事だ。
どうやら学校側はPTAからの苦情を無視して当初の予定通りにする事にしたらしい。俺としては女子からの絡みと男子からの嫉妬が少し減るので有り難い。
翌朝いつものルーティンを熟して登校する。右腕には上機嫌な舞がひっ付いていて歩きにくい。
「舞、歩きにくくないか?」
「久しぶりにお兄ちゃんと登校なんだから、これ位は当たり前!」
可愛らしい妹に好かれているのは嬉しいが、度が過ぎていないかが少し心配だ。だが、「お兄ちゃんのと一緒に洗濯しないでよ!」なんて言われたら立ち直れないだろうから今は考えない事にしよう。
「舞ちゃんおはよう!」
「あっ、今日はお兄さんと一緒だ!」
途中から舞と仲が良いお友達も合流し、一気に姦しくなる。小学生といえども女性は女性なのだ。
「お兄さん、もうダンジョンに潜ってると聞きました。凄いですね!」
「いつも舞ちゃんが自慢してますよ。どこまで潜っていますか?」
「まだ武器を買う資金が無くて、九階層で足踏みしてるよ。流石に落とし亀は固くて、武器無しでは倒すのに時間が掛かり過ぎるから」
不意に振られた質問に、ついそのまま答えてしまった。それを聞いた舞と友達二人、更には聞き耳を立てていた周囲で登校中の学生が足を止めた。
「お兄ちゃん、もう九階層まで潜ってたの?」
「お兄さんがスキルを得たの、ゴールデンウィークですよね?」
「武器無しでそれって、武器を買ったら二桁階層行けるの確実ですか・・・」
俺はヘラクレス症候群の恩恵でそう苦労せずに九階層まで潜る事が出来たが、普通はそこまで潜れるのはある程度選ばれたパーティーのみである。
落とし亀は棒等で地面を叩きつつ進めば無視して先に進む事も出来る。しかし、次に待ち構えるのは落とし亀以上に厄介なオークだ。
落とし亀を無視して進んでも、亀を倒せないようではオークも倒せない。なので進んでも意味はなく、九階層を越えられるかどうかは探索者の位を分ける目安となっている。
俺はまだ九階層を超えてはいないが、原因が攻撃力不足で武器を買えば解消出来る。故に越えられるのはほぼ確実だ。
「おい、お前みたいな華奢な奴が九階層に行けるなんて嘘に決まってるだろう。嘘じゃないと言うのならステータスの到達階層を見せてみろ!」
同じ中学の制服を着た男子が絡んできた。見せてやる義務など無いのだが、見せなければ付き纏いそうなので出してやる。
「これで満足かな?ステータスの表示は偽装出来ない。これも嘘なんて言い出すなよ?」
「ほ、本当に九階層まで行ってる・・・こんな女みたいな奴が・・・」
動かぬ証拠を突きつけられて棒立ちになった男子を無視して学校に向かう。あちこちでヒソヒソと噂されているようだが、気にしても仕方ないので無視する事にした。
「ほら、小学校は向こうだろ。車に気をつけて行ってきな」
「はい。お兄さん、ありがとう!」
「お兄さん、行ってきますね」
「お兄ちゃん、帰ったら詳しく話を聞かせてね?」
舞の反応が少し気になったが、どうしょうもないので今は考えない。両親にも言った覚えが無いから、帰ったら追及されそうだ。




