四百十七話
「そぉいっ!」
俺が大盾で受け止めた夫婦鶏の雄に、掛け声と共に横からハンマーが叩きつけられた。夫婦鶏は数回地面に叩きつけられると美味しそうなお肉に変化した。
「よしっ、冬馬伍長の方は・・・終わりましたね」
夫婦鶏の雌を相手にしていた冬馬伍長の方を見ると、嘴の攻撃を盾で受けながら剣で反撃する冬馬伍長の背後から槍を突き刺す井上上等兵の姿が見えた。夫婦鶏は耐えられず光とともに魔石へと変化した。
「皆さん、絶好調ですね」
「昨晩MPを補充しましたから」
輝くような笑顔で答える冬馬伍長。因みに、伍長の言うMPはマジックパワーやマジックポイントの略ではない。モフモフポイントの略だそうだ。
そろそろ三人も戦いたいという事で、玉藻ではなく優で戦っているのだが三人とも確実に強くなっている。それが鍛錬の成果なのかMPを回復したからなのかは不明だ。
俺は鶏肉を拾い魔石を拾った井上上等兵からそれを受け取って妖狐化を発動、迷い家を開けて放り込むと妖狐化を解除した。
「優ちゃんの防具もどうにかしないといけませんね」
「女物もそうだし、男物もどうにかしないといけないのですが。あまり良い物が無くて・・・」
俺は防具を更新していないので、ドレスアーマー以外の時は動きやすい服で戦っている。武器を変えると防具まで変わるので、女性体で二セットの防具と男性体で三セットの良い防具が欲しい。
陸軍とか宮内省におねだりしたら手配してくれる可能性は高いが、出来ればそれはやりたくない。軍にも政府にも借りは作らない方が良い。
「優君が上目遣いでお願いすれば、軍の主計局もホイホイ出してくれると思いますよ」
久川上等兵、それって色仕掛けをやれと?しかも優ちゃんではなく優君と言ったという事は、男性体でやれと?
「まあ、軍に限らず支援したいという人や組織は大量に居そうですけどね」
「あの中継の反響、凄かったみたいですよ」
冬馬伍長と井上上等兵が言う通り、軍に対して問い合わせと支援の申し込みが結構あったらしい。しかし支援の見返りに俺との会食の場を、という話も多かったらしく受けた件数は少ないのだとか。
「ロシア皇帝陛下と親交がある優君との繋がりが欲しいというのもあると思いますけど・・・」
「優君自身が目当て、という人も居るでしょうね」
否定したいが否定出来ない。大木伯爵令嬢や曽我部少佐という実例がある以上、同じ考えをした人がいるだろうからな。
「権力に囚われるなんて面倒だからゴメンですよ。ダンジョン攻略に支障を来しそうですしね」
俺の存在意義はダンジョンを攻略する事だ。それの阻害となる事象など受け入れるつもりはない。
「次が来ました!」
「肉!肉を落として!」
俺達は話しながらも油断せずに進んで行く。因みに、物欲センサーさんは勤勉で鶏肉はドロップしませんでした。
 




