第四百十六話
取り敢えずリュックが邪魔なので降ろし、玉藻になる。迷い家を開けてリュックを放り込み、ダンジョン攻略を開始した。
と言っても、この面子で浅い階層のモンスターは足止めにしかならない。その足止めも魔石を拾う時間止まる程度で、モンスターは接近出来ずに神炎に撃ち抜かれてしまう。
「マップを見て道案内してるだけ・・・ダンジョン攻略している気がしないのですけど」
「今更この辺りのモンスターと戦っても意味はなかろう。時間と体力の節約じゃよ」
特別攻略部隊の部屋で受け取ったマップを見ながら進路を指示する久川上等兵がぼやくが、彼女らが孤独狼や奇襲ヘビと戦う意味は無いだろう。
「そうじゃな、それでは七階層で楽をさせてもらおうかのぅ。七階層は久川上等兵に任せるというのはどうじゃな?」
「それだけは勘弁して下さい!」
久川上等兵の手のひら返しに俺達は爆笑した。七階層で出るのは悪名高いゴブリンである。
九階層に到達し迷い家で昼食を食べる。調理する時間と手間を省く為レーションを食べる事にした。
「二十階層で一度優になり、到達の記録を付けるが構わぬか?」
「それは構いませんが・・・ああ、滝本優として私達のバックアップを行ったというアリバイ作りですね」
訝しげな表情を見せた冬馬伍長だったが、すぐに俺の意図を汲み取り賛成してくれた。表向き優も潜っている事になっているので、適当な階層で記録を付けておかなくてはならない。
「二十階層を選ばれた理由はあるのですか?」
「優としての到達最高階層が二十一なのじゃよ。なのでその一階層手前にしたのじゃ」
もう少し手前でも構わないのだが、そこに特に意味は無い。三人から特に異議も出なかったので二十階層でそれを行う事になった。
その後も順調にダンジョンを進んで行く。望んだ物を燃やしてしまう神炎にかかればモンスターなどただの的でしかない。
この日は十七階層で夕方になった為ここで宿泊する事に。迷い家に入り順番に入浴して埃を落とし、夕ご飯は十階層で落ちた肉を使ったオークの生姜焼きを堪能した。
「いつもの事ながら、ここがダンジョンの中とは思えません」
「広々としたお風呂に美味しい食事。何処の旅館かと言いたくなります」
食後のデザートにビワを食べながらしみじみと語る井上上等兵と久川上等兵。冬馬伍長も全くだと言うように首を縦に振っている。
「ところで玉藻様、今日はもう尻尾のブラッシングはお済みになりましたので?」
「いや、まだじゃ。寝る前にやろうと思うておる」
井上上等兵の質問に答えると、三人の目が剣呑な光を宿した。
「では、私がブラッシングを!」
「いや、私が!」
「待て、それはパーティーリーダーである私の役目だ!」
尻尾をモフらせてと言われないと思ったら、ブラッシングするチャンスを狙っていたようだ。三人は互いを牽制しあい、一歩も譲る気配が無い。
「仕方ないのぅ。二人が一本づつブラッシングして、残った一人は耳をモフる事で我慢せい」
その後、耳モフり権を巡った争いとなったが、くじ引きにより井上上等兵がその権利を勝ち取るのであった。




