第四百十五話
「関中佐、そろそろ時間だが・・・何をやっとるのだ?」
「中将閣下、しょうもない事ですのでお気になさらずに」
移動時間が近くなり様子を見に来た鈴置中将がいじける関中佐を見て呆れていた。対応した部員さんの慣れた口調が関中佐の部内での扱われ方を示していた。
鈴置中将は関中佐の首根っこを掴むと引き摺って歩き出す。その光景に俺と冬馬パーティーのメンバーは啞然としてしまったが、部員さん達はそれが当たり前だというように特に反応していない。
「・・・中佐はあれが日常なのでしょうか」
「部員さん達の対応もだけど、鈴置中将の対応もそれが当然って感じだしなぁ」
冬馬伍長の呟きに答えながらも二人の後を追って歩く。関中佐の日常が小説にされたら読んでみたいかも。タイトルは「情報部部長の日常」あたりかな。
玄関前に停まっていた黒塗りの高級車の後部扉を開けた中将は、中佐を放り込み自身も乗り込んだ。俺と冬馬パーティーも後に続く。
落ち着いた内装の車内は対面式のシートが設置されていて、進行方向のシートに中佐・中将・俺の順で座り、逆方向向シートに井上上等兵・冬馬伍長・久川上等兵が座った。
荷物を持っていると偽装する為の大きなリュックをトランクに収納してもらい車は走り出す。
「皇居ダンジョンはレアモンスターも確認されていない普通のダンジョンだ。君達ならば大丈夫だとは思うが油断しないで頑張ってくれ」
「モンスターは全て既知の物でも、地形で難易度は変わるので気を引き締めてかかります」
関中佐の激励に冬馬伍長が答える。スレイプニルとかは地形でやりやすさは段違いに変わるだろう。まあ、特別攻略部隊が三十一階層まで進んでいるのだし、特段厄介な階層は無いはずだ。
車内では市ヶ谷での中佐の扱いが無かったかのように真面目な会話で終始し宮内省に到着した。俺は車を降りてトランクから取り出したリュックを背負い皆について歩く。
宮内省の職員に案内され、特別攻略部隊が使っている部屋で一旦休憩し、装備を確認してダンジョンに向かう。鈴置中将と関中佐はダンジョン入口まで見送ってくれるようだ。
「こっ、これは陛下!」
ダンジョン前の分厚い鉄板で隔離されたスペースの前に天皇陛下が侍従長を連れて待っておられた。俺達は慌てて姿勢を正し敬礼をする。
「危険な任務ですがお願いします。皆が無事に帰る事を願っています」
「ありがたきお言葉。ダンジョンが溢れぬよう全力で間引いて参ります」
ダンジョンに入る事になっている四人の中で最上位者である冬馬伍長がお答えし、満足そうに微笑まれた陛下は戻って行った。
「ふう、陛下からお言葉を賜るとは。中佐、聞いていたかね?」
「いえ、聞いておりません。よもや護衛も付けずにいらっしゃるとは・・・」
思わぬハプニングもあったが、隔離空間を抜けて中将と中佐に見送られダンジョンに入る。久しぶりのパーティー戦、頑張っていこう。




