第四十一話 陸軍情報部にて
優が陸軍と接触して数日後。第2015ダンジョン氾濫防止任務に就いていた小隊の隊長を務めた青野特務曹長は市ヶ谷にある陸軍情報部に呼び出されていた。
「青野特務曹長、今日呼び出したのは他でもない。過日行われた氾濫防止任務について貴官により提出された報告書の件だ」
「未登録と思われる獣人と接触したとの報告、我々情報部としては重視せざるを得ない。しかも、これまで記録に無かった狐獣人となれば尚更だ。よって貴官から直接話を聞きたい」
片手剣持ちこと青野特務曹長の眼前には、中佐の階級章を付けた士官が2名座っている。特務曹長はここで彼等のお眼鏡に叶えば出世が早まると気合を入れる。
「あれは十階層に到着し、オークの間引きを始めてすぐの事でした。不人気ダンジョンの割には少ないオークに疑問を持ちつつオークを探し階層の奥へと踏み入ったのです」
当時の事を思い出しながらゆっくりと話し出す特務曹長。それを聞きながら向かって左に座る中佐が一瞬眉を顰めたのだが、特務曹長はそれに気付かなかった。
「程なくしてこちらに向かい走ってくる人影に気付きました。紅白の巫女服を着た女性で、すれ違う際に狐耳と尻尾が生えているのが見えました」
嘘を淡々と話す特務曹長。ここまで特に不審に思える内容はなく、二人の中佐は口を挟む事をせずに先を促す。
「希少な獣人に遭遇するという予想外の事態に初動が遅れ、呼び止める事が出来ませんでした。慌てて追いかけようとしたのですが、獣人が走ってきた方向からオークが次々と姿を現したのです」
「それは獣人が起こしたトレインを貴官達が擦り付けられたという事かな?」
「はい、憶測ですが獣人に成れたという事で自惚れ、オークに挑んだは良いものの高い防御力と体力に倒す事が出来ず逃げ回っていたのでしょう」
再び左の中佐が眉を顰めたが、特務曹長はまたもや気付かずに続きを話し出す。
「このままでは氾濫になると判断した我々は獣人を追う事を諦めオークとの戦闘に入りました。多くのオークとの戦闘は過酷な物となりましたが、何とか殲滅する事が出来ました」
少し得意げに話す特務曹長。それに対して二人の中佐は不機嫌そうにしている。特務曹長はそれを獣人の非常識な行動によるものと思い話を続ける。
「その後走り去った獣人の捜索を行いましたが発見には至らず、早急に報告する必要があると判断しダンジョンより脱出し報告を行いました」
自らが提出した報告書と同じ内容を語り終え、労いの言葉を期待する特務曹長。しかし中佐の口から出た言葉は彼が期待した物とは違っていた。
「青野特務曹長、オークを倒して得られた戦利品はどうした?魔石の回収も任務に含まれていた筈だが」
「あっ・・・申し訳ありません、あまりの事態に動揺し、魔石の回収を忘れてしまいました」
予想外の質問に動揺するも、何とか取り繕う事に成功した特務曹長。しかし、左に座っている中佐の言葉に彼は絶望を味わう事となる。
「そうか・・・一つ面白い事を教えてやろう。本官のスキルは『虚実判定』だ。偽装や幻影を見抜くスキルだが、嘘も見抜く事が出来る。この意味は理解出来るな?」
その後、青野特務曹長は全てを白状させられ上等兵に降格。3人の隊員も曹長から一等兵へと降格されたという。




