第四百八話
「そんなスキルを襲撃に使われたら守りようがない!」
「それは心配要らぬ。迷い家だけでなく空間に干渉するスキルはこの世界の誰も所持出来ぬ故な」
衛士さんの叫びは御尤もだ。しかし、俺以外に同じ芸当を行う事は絶対に不可能なので安心してほしい。
「一人の魂の器には、空間に干渉するスキルは収まらぬ。妾は迷い家を使える妖狐という種族にする事で何とか実現されたのじゃ」
「玉藻様、それは裏を返せば妖狐化のスキルを授かれば同じ事が出来ると言う事になるのでは?」
天皇陛下が鋭い突っ込みを入れてきた。しかし、それも実現するのはほぼ不可能なんだよなぁ。
「妾は流れる筈だった双子の器と異世界の魂を融合して強引に作られたのじゃ。男として産まれ玉藻になるには容量が足りぬ故、女性体スキルで無理矢理女性にして妖狐化の負担を減らしこの姿になれるようになったのじゃ」
女性として産まれれば妖狐化だけで済んだのだが、魂が男二人に女一人で男になったのだから仕方ない。そこを変更するのはリスクが高すぎたそうだ。
「神の御業により三人分の魂の器を使い漸く出来たのじゃ。自然に妖狐化スキルの使い手が産まれる事は絶対にあり得ぬ。これは宇迦之御魂神様が断言されておる」
「宇迦之御魂神様が・・・これは疑う余地などありませんな。我らとしては助かります」
「だが、それだけ玉藻様の存在が貴重だと言うことになる。玉藻様の正体がバレたらご家族に危害が及ぶかもしれん」
迷い家を使えるのは俺以外あり得ないと納得した衛士さんは胸を撫で下ろす。そして天皇陛下が俺が抱いていた懸念を言い当てた。
「そこは関中佐と話し合い、陸軍情報部がフォロー致します。滝本医師が注目されているので、それを口実に人を派遣する事も可能でしょう」
「我々宮内省も玉藻様のお力になりたいですが、滝本家に干渉した場合勘繰られて藪蛇になりそうですな」
太政官が少し悔しそうに呟く。俺との縁を深めたいのだろうけど、手を出せば逆効果になると冷静に判断してくれているようだ。
「太政官、侍従長。皇居ダンジョンの件を良しなにな。玉藻様の秘密を漏らさず上手く収めるように。理由を問われたら天皇家が絡む秘匿事項で押し切って構わぬ」
「畏まりました。陛下と玉藻様の御心のままに」
「必ずや、陛下の望みのままに」
太政官と侍従長は陛下に答えると深々と頭を下げた。それを見た陛下は満足そうに頷いた。俺は妖狐化を解いて優に戻り、女性体も解く。
陛下はまだ玉藻と話したいようだったが、次の予定もあるので侍従長に急かされて退出していった。俺と中将は衛士の先導で宮内省を出る。
「関め、帰ったらとっちめてやる。せめて事前に教えんか。心臓が止まるかと思ったわ」
怒り心頭な鈴置中将を宥める手段を持たない俺は、心の中で関中佐に手を合わせて無事を祈るのであった。




