第四百七話
俺は少し力を込めて両手を叩く。呆けていた皆はその音で正気に返ってくれた。
「さて、驚くのは分かるが話を進めたいのじゃがな。ダンジョン攻略の鍵となるのが迷い家じゃ。誰ぞ覗いて見るが良い」
迷い家の入り口を出してこの場の全員が入れるよう許可を出す。衛士の一人が恐る恐る手を入れてすぐに出し、問題ない事を確認してから上半身を迷い家に入れた。
「横から見るとホラーですな」
「別空間にある迷い家に入っておるからのぅ」
光の扉を境にして上半身が消失しているように見える光景を見た中将が呟く。真横から見ると人体切断してるようにしか見えないからなぁ。
「中は別の場所です。日本家屋に畑や川がありました!」
衛士の報告に別の衛士や侍従長さんも順番に覗いていく。覗くだけでなく入っても構わないのだが、覗いてみろと言ったから覗くだけにしているのだろう。
「入っても構わぬよ。別世界と言っても害がある訳では無いでのぅ」
無害な事を示す為に俺が先陣を切って迷い家に入る。続いて中将が入り、衛士達と侍従長が入って来た。
侍従長は一旦出て、代わりに太政官が入って来た。そして一度出た侍従長が天皇陛下を伴って入って来る。
「あの光の扉は妾が許可した者しか入る事は出来ぬ。ここにおる以上、どのようなスキルの持ち主でも妾達を害する事は不可能なのじゃ」
「そうか、ロシア皇帝陛下を匿っていた時はこのスキルに滞在されていたのか!これは要人警護に最適のスキルだ!」
「玉藻様、陸軍から宮内省に移籍していただく訳にはいきませぬか?」
衛士の叫びを聞いた太政官がすかさず俺を引き抜きにかかった。例え一国の軍が相手だろうとも手が出せない避難場所なんて喉から手が出る程欲しいのは分かる。
「それは出来ぬ。妾は宇迦之御魂神様にダンジョンを攻略するよう依頼されておるでな。迷い家を使えば安全に休めるだけでなく、複数のパーティーを待機させ交代させながら進むという芸当も可能なのじゃ」
「玉藻様、もしかして迷い家に部隊を待機させ敵国に入った玉藻様が迷い家を開き、攻撃部隊を潜入させるという戦法も可能なのでは?」
中将がダンジョン攻略ではなく戦争時に敵国への攻撃に使えるのではと気付いた。それを聞き全員が俺に注目する。
「可能じゃよ。中将、もしもこんなスキルを持つ者が敵国に居た場合放置するかの?」
「あり得ませんな。こちらに引き込むか、それが無理なら暗殺するでしょう」
「じゃろうな、それがまともな軍人の選択じゃ。故に妾は迷い家の発覚を遅らせるよう動いたのじゃ」
今は多くの国がモンスターの対応に追われている。しかし、それも落ち着きつつあり他国へと目を向ける国も出てきている。
モンスターの脅威が軽減された時、人はまた人と争う歴史を紡ぐだろう。その時、部隊を知られずに送り込める迷い家はかなりの脅威となるだろう。




