第四百五話
「滝本准尉、立ち位置をずらした理由を聞いてもよろしいか?」
控室に来た衛士の人が俺が勝手に動いた件を咎める。中将もそこは気になっていたようで視線で答えるように促していた。
「万が一に備えて陛下や殿下の盾になれるようにしただけです」
「今日同席したマスコミは宮内省で選別された者だ。また、全員のボディーチェックも実施し危険物は持ち込まれていない事も確認してあった」
責めるような口調で宮内省の警備体制を説明する衛士。それでも信用出来ないと行動で示したのだから怒るのも無理はない。
「日本には里入り忍という忍びが存在していました。警戒に警戒を重ねて損はないかと思います」
里入り忍とは、任意の町や村に住み着き何十年も過ごす事でそこの人間となる忍びだ。町人として暮らし信用を得て、来るかどうか分からない任務を待つという気の長い潜伏方法だ。
そして上司からの指令が来れば、そこで得た知己や家族を裏切り任務を全うするというもの。マスコミの中にそんな存在が無いとは誰も断定出来ないだろう。
「なるほどな。しかし、そんな人間が居たとして武器もなしには何も出来まい。戦闘系スキルがあったとて、我ら衛士も居たのだ」
マスコミと皇族の方々とは距離があった。だから戦闘系スキルの持ち主が飛びかかっても衛士が対処出来たし、魔法系スキルを使われても発動から発射までにラグがあるので盾になれるという算段だろう。
「マスコミのカメラを中までお調べになりましたか?」
「カメラだと?中までとはどういう事だ?」
衛士はいきなり変わった話題に面くらい、質問に質問で返してきた。褒められる行為ではないが、話を進める為にスルーして答える。
「陸軍では使用していませんが、海軍で使われている拳銃という物をご存知でしょうか?」
「ああ、鉛の弾丸を撃ち出すという武器だな。まさか、それをカメラに仕込むと?しかし、拳銃は大きい物の筈だ。カメラに隠すなど・・・」
「連射出来る物は難しいでしょう。しかし単発ならどうでしょう?次弾を装填する機構も弾を格納する場所も要らないのでかなり小型化出来ますよ」
銃とは何発かの弾丸を撃つ武器という知識しかなかった衛士と中将は、俺の答えを聞いて驚き考え込んでしまった。
「私はそういった物が使われているかは知りません。しかし、皇帝陛下と皇女殿下を襲っていた賊は銃を使っていたので警戒するに越したことはないと判断しました」
前世で使われていたデリンジャーという拳銃は、掌に収まる位の大きさだった。この世界にそんな銃があるか知らないが、もし使われて天皇陛下やニック、アーシャに何かがあったら俺は一生後悔するだろう。
「君は・・・本当にまだ中学生の軍属なのか?」
「そんな知識、どこから学んだのだ?関中佐の仕込みなのか?」
中将、知識の元は後ほどお教えしますよ。衛士さんも同席が許されたら知る事になるでしょうね。




