第四百四話
「優君、久しぶりだ。元気そうだね」
「皇帝陛下、お久しぶりです。私も家族も恙無く暮らしております」
天皇陛下に代わりニックが前に出て手を差し出してきた。それを握ると一斉にフラッシュが焚かれシャッター音が響く。
「ニコライ陛下、名前で呼ぶとは随分親しいようですね」
「私とアナスタシアは滝本家の方々に匿って貰っていましたからね。ファミリーネームでは誰を呼んだのか分かりにくいですから」
ニックは卒無く答えたが、実際はニックネームで呼んでいると知ったら天皇陛下はどんな反応をするだろう。
「お久しぶりです。その節は本当にお世話になりました」
「お久しぶりです、皇女殿下。私も家族も皇女殿下と過ごした日々は良い思い出です」
父さんは兎も角、母さんと舞は異常に早く適応していたからなぁ。舞はまた会いたがってるし。
アーシャとも握手を交わし、マスコミからの質問を受ける時間となる。変な質問が来ないか少し心配だが、上手く乗り切るしかない。
「皇帝陛下、滝本准尉が助けに来た時の印象はどうでしたか」
「あの時、余は賊の毒に倒れていて優君が来てくれた時には意識がなかった。故にアナスタシアに答えて貰おう」
「同じ年ごろの優さんに初めは逃げて欲しいと思いました。刺客二人に敵うと思わなかったからです。しかし優さんは刺客を制圧してくれ、私達を保護して下さいました。今はあの出会いを神に感謝しています」
アーシャのベタ褒めに少し恥ずかしくなる。だけど間違えた事を言っている訳では無いし、マスコミも盛り上がり口を挟める雰囲気ではない。
「滝本准尉にお聞きします。准尉はお二人がロシアの皇族だと知らずにお助けしたのですよね。知った時のお気持ちは?」
「皇女殿下にお名前をお聞きした時、もしやと思い確認したのですが本当に驚きました。まさかロシア帝国の皇帝陛下と皇女殿下に広島でお会いするとは夢にも思いませんでしたから」
そんなの、誰が予測できるのかって話だ。前世最後の皇帝陛下と皇女殿下のお名前と同じだったから気付いたが、俺が気付かなかったらアーシャは身分を明かしただろうか?
「皇帝陛下、准尉の家族の所に匿われていたとお聞きしましたが、どのように暮らされていたのでしょうか?」
「それに関しては帝国陸軍の機密に触れる事がある故答えられぬ」
俺と中将の方を見た皇帝陛下は答える事を拒否した。マスコミもそこは弁えているのかそれ以上。聞こうとはしなかった。
「次の予定もありますので、取材はここまでとさせて頂きます」
太政官が終了を告げ、両陛下と皇女殿下は退室していった。俺と中将も初めに通された控室に下がる。俺は内心マスコミが変な質問をしてこなかった事に安堵していた。




