第四百二話
翌日、両親と舞に見送られて市ヶ谷に向かう。日曜日の電車は平日よりは空いているが座れる程ではなかった。
池袋で地下鉄に乗り換えて市ヶ谷へ。地下鉄の駅構内のトイレで着せ替え人形を使い軍服に着替える。別に見られて困る物ではないが、見た人が驚いて事故を起こしたりしてらマズイ。
「お役目お疲れ様です」
「おはようございます、お疲れ様」
門衛の軍人さんに身分証を提示して中に入る。今日は軍服を着ている為かいつもより警戒されなかったような気がする。
「おはようございます。滝本准尉相当官です」
「優君お疲れ様。中佐と中将が部長室で待ってるよ」
今日のイベントは関中佐ではなく鈴置中将が同行する手筈になっている。皇帝陛下と天皇陛下に謁見するのに付き添うのは佐官より将官の方が良いという判断だ。
「鈴置中将、関中佐、おはようございます」
「優君おはよう。今日は頑張ってくれよな」
「中将、優君ならば何があっても大丈夫ですよ」
中佐、俺はちょっと特殊なスキルを授かっているけど生粋の一般人ですからね。前世の記憶がある分特殊だけど、その前世も純度百パーセントの平民ですから。
ニックとアーシャは出会いが特殊だったし近くに居たから慣れたけど、天皇陛下との面談なんて一度経験しただけじゃ慣れませんから!
「中佐、宮内省を説得するのは優君に任せて良いのだな?」
「ええ、彼は中将がまだ知らない情報を持っています。それを使えば一発ですよ」
鈴置中将は俺が玉藻だとまだ知らない。関中佐はそれを事前に教えるつもりは無いようだ。中佐、もしかして面白がってないか?
「少し早いが出向こうか。早い分には向こうで待てば良いからな」
「そうですね。万が一遅刻などしたら海軍が鬼の首を取ったかのように騒ぐでしょう」
今回大きな失態を演じた海軍は、陸軍に僅かな失策があれば派手に騒ぐだろう。そして陸軍の評価を少しでも下げる事により海軍の評価との差を縮めようとする筈だ。
建物を出て正面玄関に停められていた黒塗りの高級車に乗り込む。見た目は普通の車だが、魔鉄を使う事で前世の装甲車並みの防御力を持つらしい。
お堀の二重橋を渡るとマスコミの中継車が列を成して停まっていた。複数のカメラがこちらを向き、マイクを持った人がしきりに話しているので中継されているのだろう。
「車内を映せる訳でもないのに、車を映して意味があるのでしょうか?」
「まあ、彼らもそれが仕事だ。茶番であろうとも付き合ってやらねばならんのだよ」
SNSが普及しても、テレビの影響力は無視できない力を持つ。口調からするに鈴置中将もマスコミ対策には苦労しているのだろう。
「宮内省の正面に陸軍の車が到着しました。あっ、人が降りてきました。鈴置中将と滝本准尉と思われます」
リポーターの声が聞こえてきた。人が降りてきたって、そりゃ犬とか猫が降りて来る訳無いだろうに。人以外の何が降りると言うのさ。
作者「人以外の何が降りるって?そりゃキツネさんでしょ」
優「いや、確かに狐巫女だけど・・・」




